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超短編小説  108物語集(継続中)

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 なぜこんな出口が見つからない迷路に迷い込んでしまったのだろうか。それは阿沙子が撮った一枚の写真から始まった。

 ある朝、阿沙子が出勤すると、デスク上に一通の書類が放置されていた。数字が並び、極秘1級の判が押されてある。よく見ると新商品の価格リストだ。阿沙子は驚いた。とにかく秘書であれ読むことは許されない。阿沙子はなぜここにと一旦思ったが、朱印に危ない誘惑を感じた。背任に胸が高鳴り、こっそりと携帯電話で文書を写した。
 そしてその夜業界の会合があった。阿沙子は役員の世話で同行した。もちろんB社の亮介も同立場で来ていた。

 阿沙子は亮介がやり手の営業マンであり、眩しい印象を持っていた。だがすれ違いざまに、ご苦労様ですと声を掛けるくらいなもの。競合同志が挨拶以上の会話をすることは独禁法上御法度。遠くからその立ち居振る舞いを眺めるしかない。

 だがその日は違った。会合が引けた後、上司から「ホテルの部屋に、あっちの価格表を忘れた。取りに行って欲しい」と頼まれた。阿沙子はこの「あっち」の意味がわからない。それでもとにかく「承知しました」と部屋へと向かった。

 そして阿沙子はド肝を抜かれることに。部屋に亮介がいたのだ。
「なぜ、ここに?」と尋ねると、亮介は目を白黒させ、「あっちの価格リストを忘れたと役員から言われて、ここに」と。
 二人ともこれで腑に落ちた。要は相手会社の価格リストを持って帰って来いということなのだ。部屋にはPCが用意されてある。阿沙子はケイタイの写真をUSBメモリーにコピーし、亮介に手渡した。そして亮介もB社の極秘文書を他のメモリーに貼り付けてくれた。それを持ち帰った阿沙子、翌朝、上司のデスクの下に落としておいた。この辺が上級秘書の技なのかも知れない。

 その後というもの、二人は時々情報交換のため秘密裏に会うようになった。だが互いに好意を抱いていた二人、業務の枠を超えてしまうことに。ねんごろの仲になるのにそう時間は掛からなかった。

 もちろん会社にとっては目論み通り、愛欲に縛られた会社の犬に、二人をしてしまったのだ。