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超短編小説  108物語集(継続中)

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「宇田川先生だね、よう来てくださった。私がこの企画の責任者です。こちらが昨日登ってこられた吉沢美智先生、そしてまかないのトヨさん。生徒たちは向こうの教室におります。二年間の教育、途中で放り投げないようにね。年俸は指定口座に振り込みますから、信用してください。私はこの上にある天狗山の山小屋に戻りますから、あとはよろしくね」
 男はこうたたみ掛け、さっさっと引き上げて行った。

 年の頃は三十歳前後、背は高く、黒縁のめがねを掛けた、いかにもインテリ風な吉沢美智。そしてちょっと小綺麗なまかないのおばちゃん、トヨ。そんな女性たちに加え、三十歳半ばの、少し髪の毛が薄くなってきた並のオジサンの宇田川。
 三人はただ呆然と男を見送るしかなかった。だが、ここで戸惑ってるわけにはいかない。

「さっ、二年間の共同生活をスタートさせましょう」
 宇田川はリーダーぽく話し掛けた。それに美智は「そうね、まずは生徒たちに会ってみましょうよ」と返し、教室へと向かった。

 開校の日だが、父兄の姿が見えない。そんな不自然さがあるが、今までの謎めいたいきさつからして、これ以上の詮索をしても仕方がない。そんな納得をしながら、三人は教室のドアを開けた。
「これからみんな仲良く、しっかりと勉強して行きましょうね」
 宇田川はそう声を掛けたが、児童たちは狐につままれたようにポカンとしている。

 やんちゃそうな男の子三人、そして可愛い女の子二人、聡明そうだが言葉が通じない。
 なぜと困惑したが、ここは年の功、トヨが「さっ、みんなお腹がすいただろ。ここにお握りがあるから、食べなさい」と微笑んだ。子供たちからワーと無邪気な歓声が上がった。

 こんな出来事から山の学校は始まったのだった。