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超短編小説  108物語集(継続中)

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 ブツッ。

 正月休暇を終え、単身赴任先へと戻ってきた高見沢一郎、ここまで観たDVDのドラマを切った。
 今年の正月は妻の夏子と喧嘩もせず、割と和気藹々と過ごせた。しかし出掛けに、「あなた、このドラマ、結構味わいがあるわよ」と渡された。

 明日からは仕事。だから今日中にとプレーヤーに放り込んだ。だがここまで観た感想は、まあ、そういうものかという程度のもので、格段の味わいなるものは感じられない。
 そんな頃合いをまるで見計らったように、着メロが鳴った。妻の夏子からだ。
「あなたドラマ観た? 良かったでしょ。お互いに干渉しない、あんな自由で気ままな……、妻の生き方に憧れるわ」
 夏子が一方的に話してくる。しかし、また妙なことを仰ってくれるものだ。
「すでに、そうなってるよ」と高見沢は反発したかった。しかし、それを言ってしまえば、あとが面倒なことになってしまう。そのためか反射的に、「あぁ」とだけ返した。

 だが、高見沢は思った。これじゃまるでドラマの中の男と一緒じゃん。だけど男って、「あぁ」という返事しか持ち合わせていないんだよなあ、と。思わずぶっと吹き出した。
「あなた、どうしたのよ?」と夏子が訝る。高見沢はいつもの妻への口癖で、謝る理由もないのに「ゴメン」とまず一言、そして後を続ける。

「夏子に言い忘れてたことがあるんだよ。それは――新(あらた)しき 年の始めの 初春の 今日降る雪の いや重(し)け吉事(よごと)、だよ」