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超短編小説  108物語集(継続中)

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「あなた、こんなところで寝てたら風邪引くわよ」
 こんな呼び掛けで、男は虚ろに目を開けた。すると、妻が仁王立ちしてるではないか。これはひょっとすると趣味の悪い初夢かと一瞬過ぎったが、男は現実に戻され、「あぁ」とだけ気だるく答える。

「嫌だわ、あなた。『あぁ』しか喋れなくなったんだから」
 それにまた男は「あぁ」と繰り返す。しかし咄嗟に、これではまずいと思い、「お帰り」と付け加えた。
「さっ、これから私たちのお正月をしましょ」

 しばらくしてお重がテーブル上に並んだ。男は妻と向かい合い、封を切らず残しておいた大吟醸をお屠蘇(とそ)とし、猪口に注ぐ。そして背筋を伸ばし、「あけましておめでとう。君のお陰で無事正月を迎えることができました。またこの一年、よろしくお願いします」と、照れながらもこんな改まったことを口にした。そして猪口を妻のお猪口にカチンと合わせる。
「こちらこそ、いつも我が儘にさせてもらって、感謝してるわ。本年もよろしくお願いします」
「あぁ」と男は一言返し、ぐいと飲み干す。そしてやおら窓の外に目を向けると、白いものが……。
「初雪だよ」

 それに妻は「そうね」と返し、あとは「このお酒美味しいわ」と目尻にいくつもの皺を寄せるのだった。