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超短編小説  108物語集(継続中)

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 悦蔵は十四歳、紗菜は十二歳、なかなか利発な兄妹だ。しかし、よくここまで生き延びてこられたものだ。
 母、静香(しずか)と三人で細々と村の外れで暮らしていた。母は雪のように色が白く、綺麗だった。二人はそれが幼なながらにも自慢だった。そして貧しくとも幸せだった。

 だが、あれは三年前のことだった。母は祭りの後の宴席に呼び出され、庄屋へと出掛けて行った。そして村の男たちにいたぶられたのだ。
 逃げる母を追い掛け、獣のように襲いかかった荒くれ者たち。それを庄屋の旦那の庄助は不気味な笑みで眺めていた。そして最後に、母は庄助に弄(もてあそ)ばれ、絞め殺された。

 こんな一部始終を見てしまった悦蔵と紗菜、まだ年端もいかない子供だった。だが母を守れなかったことが悔しい。そしてそれは憎しみに変わり、日ごと恨みが骨髄に染み渡って行った。
 だから悦蔵は理解できた。紗菜がここにきて、母の無念と、そして自分たちの怨(えん)嗟(さ)を晴らすために屋敷に火をかけたのだと。

 ここで悦蔵は思い出した、万が一のことを考え、「何か困ったことがあったら、山寺に行きなさい」と、母はいつも二人に言って聞かせていたことを。
 悦蔵にはもう迷いはなかった。その教え通りに紗菜の手を取り、三日三晩寝ずに野を駆けた。そして山を登り、今にも朽ち落ちそうな寺へと辿り着いた。

 門を叩くと、天狗のような坊主が現れた。そして一言訊いてきた、「母の名は?」と。
 これに悦蔵は「母は静香と申します、三年前に殺されました」と声を震わせた。
 これに坊主は手を合わせ、あとはこの二人が助けを求め駆け込んできたことに別段感情を出さず、淡々と話す。
「わしは生滅流転(しょうめつるてん)という坊主じゃ。世の恨み辛みは絶えぬもの。それが運命だと思い、ここでしばらく精進せよ」

 坊主はこんな小難しいことを告げ、二人に夜露が凌げる小さな小屋を与えてくれた。それでも悦蔵と紗菜は嬉しかった。なぜならここでなんとか二人で力合わせて生きて行くことができるからだ。