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超短編小説  108物語集(継続中)

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「どうしたんだ?」
 悦蔵(えつぞう)は、何かに怯(おび)えて、うずくまる紗菜(さな)に訊いた。妹は「うーうん、兄さん」とだけ答え、あとは泣きじゃくる。

 悦蔵はそんな紗菜が震わす肩越しに目撃したのだ、天にも昇る火柱を。
 炎は村の庄屋でごうごうと燃え盛っている。悦蔵は総毛立ち、めまいを覚えるほどだった。しかし妹が無性に哀れに思われ、力を込めて抱き締めた。

 悦蔵は紗菜を問い詰めなかった。なぜなら紗菜が火をつけたことは、その涙の濃さからして明々白々たる事実だった。まるで夜叉にもなってしまった妹、その気持ちが痛いほどわかる。そして兄として、ここに至ってしまった以上、覚悟を決めた言葉を絞り出す。
「紗菜、ここから逃げよう、今すぐに」
「うん」
 紗菜は小さく頷き、涙で濡れた手で悦蔵にしがみつく。