誰かたすけて ショート3つ
980円
オーダーした二人の料理がすでにテーブルに届いていた
彼女の頼んだオニオングラタンが熱気を吐き出している
この席についてからは一度も言葉を交わしてはくれない
周囲の雑音は耳に入らない
話しかけていた
季節の変わり目を告げる冷たい雨
この席にいれば二人を冷やすことはない
話しかけていた
彼女は黙り込んだまま
返事もくれない彼女に言葉をなげかけていた でも
もう話す気にはならないようだ
話しかけるのを止めてみると突然
ひどい沈黙が訪れた
グラタンには一度もフォークを付けることなく
彼女はタバコに火をつける
それは彼女の食事が終わったサイン
食事時の煙を嫌うのを知りながら 火をつける
心を見透かしたような彼女の態度
見透かされて困る事など何もない
はずなのに 視線は嘲笑っている
沈黙の理由
簡単に言葉に出来るくらいの気持ちならもう話してる?
それとも
明確すぎて今さら話す事ではない?
、、、ってことか
流れてくる煙は重く
彼女はレシートを残し 席を立った
すると心は裏返った
グラタンが冷めた頃 周囲の雑音が耳に入りだしてきた
来た時とは明らかに違っている
彼女との仲を取り戻そうとここに来た
踏みにじられたような
踏み外したような
なんとも言えない
恋愛小説家じゃないから
なんとも癒えない
傷つかなかったから
腹立たしくて火の中にいるよう
オニオングラタン980円
食べないならたのむなよ
作品名:誰かたすけて ショート3つ 作家名:夢眠羽羽