あなたが好き
告白十五分前。
車が走り始めて、交差点を七個。赤信号で三回停車した。
そんなことに意識を向けていた。
「今日は、お仕事忙しかったですか?」
「え?何ですか?」
「仕事、忙しかったですか?昨日遅くなるって言っていたでしょ」
「ええ、まあ」
「僕の為に早くしてくれたのかな。あ、名前聞いてもいいですか?」
「あ、私のですか?」
「ほかに、誰のを聞けばいいのかな?まあいいけど、呼べればいいですから」
私は、とんちんかんな答えをしたことに口を閉ざした。
男性もそのまま、話しかけてこなかった。
右折、左折と道を進む。そして今、ずっと直線に走っている。
そして、私は、困らせているだろうかと思い始めた。
しっかりと意思表示をしないといけないと私は静かに息を吸った。
告白五秒前。
黄色信号に差し掛かった車は、赤を待たずにブレーキをかけて停まった。
ちょうど、赤信号。後続の車はいない。
「あの、私、貴方のことが好きみたい」
私の鼓動が一気にデッドラインを越しそうだった。
(あー何か答えてー)
「そう」
返ってきた言葉は、それだけだった。
信号が青に変わり、車は発車した。
「まだ、あなたの気持ちは途中ですか?」
「どういうことですか?」
「そういうことです」
「私には、わかりません。貴方が。貴方の気持ちも」
私は、だんだん悲しいような怒りのような不満をあらわに見せた。
「僕は、貴女が好きになりました。良ければ、君の名前を知りたいし、その名を呼びたい」
「私は…」
「あ、待って」
「……」
「僕への気持ちが見つかったのなら、教えてください。いつか嫌になるのは仕方ない。でも始まりは…」
(そんなの 可笑しい!可笑しい?可笑しくないの?そういうのって……)
私の告白は、こうして受理されなかった。
―曖昧も時には素敵。
でももし、逆なら嬉しいと心から思えただろうか?
どこか、予防線を張りながら、本心を伝えて、本心を返して貰えるだろうか?
私はこの人に告げる。
『私、あなたが好き』
と。
― 了 ―