不思議な案内人
不敵な笑みを浮かべて、こちらに向き直る。何を理解したらいいのかわからない。頭が混乱する。
「三回だけ、ジョン・クリスティアーノ・エリクシール・コーンスターはこの国道を登り方面に通過する。その間、君は何をいてもいい。三回通過した後に、ジョン・クリスティアーノ・エリクシール・コーンスターは死後の世界に向けて旅立つことになる。それが君との今生の別れ。後戻りはできない別れ」
つまり、ジョンがここを三回通り過ぎるのが最期の別れになるのか。
何故、三回なのか、火葬されたのにここを通るのか、聞きたいことは沢山ある。あるのだが、聞いていても埒が明かない。
「フフフッ……、そこでひとつ、注意が必要だ。通り過ぎるジョン・クリスティアーノ・エリクシール・コーンスターに触れてしまうと連れてきてしまうかもしれない」
「ホホホッ……、お兄様ったら、お節介が過ぎるのだから」
連れて来る? なんだそれは、ジョンが蘇るのか?
「それって、どういう意味だよ」
「フフフッ、言の葉の意味など、万人に共通するわけではないからね。そのとおりの意味としか、言いようがないさ」
「アラアラ、お兄様ったら曖昧ね」
この兄妹はなにか喋るたびにクスクスと、どこか人を小馬鹿にしたような微笑を浮かべる。
しかしどうだ? 連れて来るかもしれないということは、蘇る可能性がゼロではないということなのではないか?
ジョンが蘇ってくれたら、今までのような楽しい時間を過ごせる。その可能性があるのならば、その三回の間にジョンを抱きしめ、そのまま帰ってしまえばいい。
「フフフッ、君が時間をかけるから、一回目、そろそろだよ」
「ホホホッ、何をするのかしら」
三回もあるんだ。一回くらい触れられるさ。
すると、遠目になにかがこちらへ向かってくる。
ここまで一台も車が走っていない国道を、猛スピードでジョンが通り過ぎていく。
「フフフッ、一回目、通り過ぎてしまったね。お別れの挨拶はできたかい? まあ今回駄目でも、あと二回あるから、がんばってくれたまえ」
ジョンの挙動にゾッとした。
生前の姿かたちをしているのだが、歩道からでもわかるスピード感。車ぐらいの速度は出ている。それでいて、足は突っ立ったまま動いていない。肉球にホバークラフト機能がついたのかと思うような動きは、見ているだけで不気味だった。
「フフフッ、そろそろ二回目だ」
「ホホホッ、せめて声だけでもかけてあげて下さいね」
そして二回目がやってくる。
「くっ……、早い……」
歩道の端から捕まえに行ったのでは、あの速さに慣れない。
「フフフッ、次が三回目だが、それが今生の別れだ。悔いのないように」
「邪魔するなよ、絶対に俺に触れるなよ」
次が最期。逃したら別れが待っている。こんな状況で邪魔されたらたまったもんじゃない。悔いきれない。
「フフフッ……、本気だね。そうだよ、やりたい事を本気でやりたいのなら、本気を出さないとね」
「ホホホッ……、誰もあなたを止めはしませんわ」
来る! 三回目! 最期の三回目! 歩道なんかにいられはしない。車道で待ち構えれば、何とかなるかもしれない。怪我なんて恐れている場合じゃない。
来た! ジョン!
車道で待った甲斐があった。
真正面。
ジョンが飛び込んでくる。
まるで慣性の法則が働いていないかのように、なんの衝撃もなく、ジョンが胸の中で尻尾を振っている。
「ああ……、ジョン。帰ろう、家へ。着いたら高い缶詰開けような。もう一人にしないでくれよ。もうちょっと長生きしてもらわないとな。父さんにも、ジョンが帰ってきたこと教えてあげないとな」
「ワン!」
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