小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
谷口@からあげ
谷口@からあげ
novelistID. 707
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

不思議な案内人

INDEX|1ページ/3ページ|

次のページ
 
「ジョン・クリスティアーノ・エリクシール・コーンスター……」
 飼っていた犬が死んだ。
 九年飼っていた、愛犬が死んだ。
「まだ九歳だってのに、逝っちまいやがって……」
 ジョンを拾ったのは九年前。
 その時は、まだまだ小さいジョンを隠しながら家に連れ込み、母さんにバレて、散々怒られたこともある。
 父さんはジョンを飼うのを許してくれて、それからは俺が世話をしてきたのだが、これから最期の世話が待っている。
「葬儀……は、しないか。普通。となると、お墓を作る? いや、土葬はまずいか。火葬か? ペット火葬してる所って、この辺にあるのかな」
 ペット火葬を黄色い本で探すと、隣町にあるらしい。
 早速予約を取り、父さんの車で向かうことになった。
「仕事があるから、送るだけになるぞ。帰りは歩きだな。ま、帰りは楽だろうから」
 ジョンの世話のサポートをしてくれていた父さんも、寂しそうな表情で車を出してくれた。父さんも、何か思うところがあるのだろう。
 俺は、車での移動中。ずっとジョンを抱き、凍える身体を暖めてあげていた。
「ここらへんかな? 火葬場の人が、外に出て待っててくれるみたいだけど……。あ、いたいた。おし、じゃあ金渡しておくから」
 そう言うと、財布からお札を二枚渡してくれた。学問のすすめの人だ。
「じゃあな、ジョン。またな」
 頭をクシャクシャっと撫でて、会社に向かう父さん。
 わざわざ車を出してもらったんだ、帰ったらお礼を言っておこう。
「おはようさん。ああー、その子だね。はいはい。この籠にどうぞ」
 出迎えてくれたのは、とても人の良さそうな老夫婦。
 着いたのは、ちょっと山に入り始めたくらい標高にある、ごく普通の民家。そこに隣接して、焼却炉のような施設がある。
「んー、そうだね。お金の話は後でしようかね。足りなかったときはまた今度でいいからね。さ、この子は私が預かるから。最期に頭でも撫でてくれるかな」
 もうすでに涙目。
 ワシャワシャと頭を撫で、心の中で「さようなら」をした。
「さて、時間かかるから、おじいさんに任せて、こっちでゆっくりしていってね」
 焼却炉から壁を隔ててすぐの所に、客間のような部屋があった。火葬場というよりも、ただの民家に近い。
 以前、じいちゃんが死んだときのような、仰々しい火葬場ではなく、ゆっくりと時間が流れるような、安心感があった。
 座布団に座り、おばあさんの色々な話をした。
 ジョンの年齢や出会い、思い出など。話すたびに涙が溢れ、うんうんと頷いてくれるゆっくりとしたおばあさんの優しい笑顔に、少し、心が救われた気がした。
「さ、終わったよ。こっちに来ておくれ」
 おじいさんに呼ばれ、焼却炉の前に行くと、肉体を骨だけにしたジョンが横たわっていた。
 またも涙が溢れてくる。
「さ、最期のお世話だよ。骨を拾って、これに入れて頂戴ね」
 茶筒くらいの入れ物と割り箸を渡され、涙ながらにジョンを納めていく。
 入れ終わると、ジョンは片手で持てるくらいの大きさ、重さになった。
「はい、これでおしまいだよ」
 全て終わり、小さくなったジョンを抱えて岐路に着いた。
 これからはジョンがいない生活。
 毎朝ジョンに起こしてもらっていたけれど、これからは自分で起きなければ。

 *****

「フフッ」
「へ?」
 誰かのせせら笑いが聞こえ、目を覚ました。
「フフフッ、失敬。起こしてしまったかな」
「ホホホッ、お兄様ったら、わざと起こしになったくせに」
 見ず知らずの男女が、傍にいる。
「あれ、ここは……。寝てたはずなのに」
 ここは、近所にある車の交通量が多い国道。さっきまで寝ていたはずなのに、どうしてこんなところにいるのか。夢遊病なんて患っていないぞ。
「一体、どういうこと……」
「アラアラ、この方、まだ寝ぼけているようですわ。お兄様」
「そうだね、妹よ。もう少し様子を見てみる必要があるようだ」
 この男女はなんなのだ? 会話を聞くには兄妹のようだが……。そんなことよりもこの状況は一体なんなのか。さっきまで寝ていたと思ったのに国道横の歩道に突っ立っている。空の明るさを考えると早朝か夜手前? でもこの交通量のなさを考えると早朝なのかな。未だに車が一台も通らない。
 よくわからない状況のなかでわかっているのは、ここは近所の国道であることと、俺以外の人間が傍にいることだ。
 男のほうは、背丈も俺とそんなに変わらないくらいで、年齢も近そうだ。学ランに学帽をキチっと着こなし、背筋も伸び、目鼻立ちが整っている。髪は耳にかかり、黒光りする繊維が学帽からはみ出し、主張する。今時にしては珍しいくらい昔の金持ちの息子を連想させる服装だ。
 女のほうは小さく、腕、脚、胴に至る全てが細く、胸はない。明らかに俺よりも歳が下で、傍にいる男との会話によっても年下なのがわかる。濃い紺色のセーラー服を身に纏い、深紅のリボンをしている。髪は金色で肩まであり、左右に分けた髪の束が少しウェーブしている。目鼻立ちも同じく整っているのだが、兄妹かと問われると、そうではないような気がする。よくみると、瞳が青い。
「状況が掴めないんだけど、俺になにか用なのかな」
 二人とも、少し口角を上げ、再び口を開いた。
「フフッ、どちらかというと、君のほうが僕達に用があるはずなんだ。でも今の君はなにも知らない。だから僕は『気が向いたから』という理由で、僕の方から君に声をかけることにしたんだ」
「ホホホッ、お兄様ったら、お節介が過ぎますわ」
「フフフッ、本当に、参ったものだよ」
 こちらの反応を楽しんでいるのか、完全に二人だけで楽しんでいる様子だ。
「フフフッ、さて、本題に入ろうか。君の愛犬ジョン・クリスティアーノ・エリクシール・コーンスター。亡くなってすぐで悲しいだろうと思う」
「なんでジョンが死んだこと知ってるんだよ」
「フフフッ、そんなことはどうでもいいんだ。よく聞くんだ。三回。これから三回だけ、この国道の登り方面に向けて、ジョン・クリスティアーノ・エリクシール・コーンスターが通過する。これが君にとって、ジョン・クリスティアーノ・エリクシール・コーンスターの姿を見るのが最期になるだろう。その三回でお別れを言うのも良し、言わぬも良し。ジョン・クリスティアーノ・エリクシール・コーンスターとの最期なのだから、何をしてもよいだろう」
「ホホホッ、お兄様ったら、本当にお節介が過ぎるのだから」
「ちょっと待て、ジョンは死んだ、火葬もしてあるし、その骨も俺の部屋にある。ジョンが死んだショックはでかかったけど、ジョンはもういない。そんなことわからないほど混乱していない。馬鹿にしているのか?」
 何がお節介だ、何がしたいんだ、こいつらは一体何なんだ。
「フフッ、今の君の精神状態など関係はない。信じるか信じないかなんて僕には興味がないのでね。ただ、僕が今言った事が全て。今、ここでのルール」
「ホホホッ、やっぱり状況が飲み込めていないのですわ。お兄様」
「フフフッ、こんなに急な出来事に対応できる人などそうはいないさ、妹よ。ルールが存在している。それだけで十分なのさ。さ、もう一度言おう」
作品名:不思議な案内人 作家名:谷口@からあげ