夜の木
しばらくいろいろな映像を見ていると、ぼくはだんだん眠くなってきました。
それが分かったのか、映像を見ている僕の頭の辺りから、泉の精の声がしました。
「そろそろ眠くなってきたかい。じゃあ、目を開けなよ。夕食を食べて、寝るといい」
僕が目を開くと、僕の近くの草原の上に、いくつかの木の実が用意してありました。僕は、見たこともない木の実を食べました。どれも食べたことのない味でしたが、とてもおいしい木の実でした。
僕が食べ終わると、泉の精は、僕がいる泉の近くの木の根元にある柔らかな草原の上に、木の枝や草の葉で作ったやわらかいベッドを用意してくれていました。
「君は、これから木が目覚めるまで、毎日こうやって泉の中の映像を見て、木の根元で眠るんだ。そうすれば、君の中に入っているたくさんのお話が、この大樹のじいさんの夢になって根っこから木の葉の先まで流れていくよ」
泉の精の話が終わるか終わらないかのうちに、ぼくは疲れて、眠っていました。眠っている間、僕はとても安心していました。とてもあたたかな母さんの腕の中にいるように、何かに守られているように感じました。そして、木の気持ちを感じました。
木は、決して周りを拒んでいたりはしない。僕の持ってきたいろんな人たちのいろんな感情、いろんな話をもっと聞きたかったのです。木は、眠っている僕に優しい歌を歌ってくれました。その代わり、僕は、さっきまで僕が記憶の中に持っていた、たくさんのお話を木に聞かせてあげたのです。
次の日も、その次の日も、ぼくは、おいしい木の実を食べて泉に入り、また木の実を食べて木の根元で寝ました。そして何度も木とお話をして、木の歌う音楽を聴きながらねむりにつきました。
すると、少しずつですが、地面近くに下りている木の葉が緑の色を取り戻してきているのを発見しました。それに、小さな花が地面から生えているのも見ました。
月の女神様の様子を見ると、前より少し楽になった様子で、時々目を覚まして僕に笑いかけてくれました。
すこしずつでも結果が現れていることに、ぼくはもっともっと、やる気が出てきました。
そして、今回もまた、僕はいつもと同じように泉に足を入れて目を閉じました。
しかし、これで最後となった泉の冒険は、僕にとって一番の試練になりました。
目を閉じてしばらくすると、風の音がしてきました。
風の音以外は何の音もしない、そんな中、目の前に現れた光景は、誰もいない町に砂塵が吹き荒れている光景でした。立ち並ぶ家は焼かれたものも、壊されたものもありました。コンクリートの建物にはたくさんの銃弾がめり込んだ弾痕が残っていました。