夜の木
でも、夜になると空いっぱいに広がるいくつもの星は好きだった。
一番じゃないけれど、それぞれが違っていた。赤かったり、青かったり、大きかったり、小さかったり。夜、星空を見上げるのがいつしか習慣になっていた。
僕がそこまで彼の心の中を覗き込むと、今度はほかの光景が目の前に映りました。
夜になっても昼間のように明るい都会のビルの真ん中で、オアシスのようにできた公園がありました。そこに一人の女の子がお母さんと一緒に夜空を見上げていました。
星がいっぱいあって、月がとても煌々と輝いていて、その光に照らされた夜光雲が空を行き交うところをこの目で見たい。
お母さんのふるさとにはそういう場所があるのよって、お母さんは言っていた。
でも、お母さんは私が生まれてから一度もそのふるさとに帰ってはいない。私を一人で育てるためにお母さんは忙しい。だから、ふるさとのおじいちゃんやおばあちゃんとは贈り物や、たまにかかってくる電話でしか触れたことがない。
おじいちゃんに会ってみたい。おばあちゃんに会ってみたい。
そして、絵や写真ではない本当のお星様を見てみたい。
だって、夜でも明るいこの場所は、星の光が町の明かりに負けて見えないから。
ねえお母さん、どうしたらその夢はかなうのかな。私ががんばって、お母さんが忙しくならなくなったらふるさとにいけるのかな。
そんな話をしている女の子を見ていると、また風景が変わりました。
何度も何度も風景は変わり、そのたびにいろいろな人の、いろいろな物語が見えてきました。
彼氏に振られて泣きながら星空を見上げた女性。その彼氏とはよく星空を見上げて星座の話をたくさんしました。
タバコの煙を吐きながらビルの屋上で休んでいたミュージシャン。あまり星は見えないけれど、見上げた月が心を癒してくれました。同じ月を、故郷にいる古い友達や家族が見ているかもしれないと思うと、忙しくて寂しい都会の生活に安心が戻ってきました。
僕は、いろいろな人のいろいろな話を覗き込むたび、心にいろいろな感情や意見を抱いていきました。悲しかったり、うれしかったり、ほっとしたり。まるでその人、本人になったかのようでした。