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瑠璃 深月
瑠璃 深月
novelistID. 41971
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夜の木

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僕は、泉の精の言うとおりに、大きな木の幹をぐるりと回って、泉のあるところまで行きました。なるほど、泉を大事に抱えるようにして木の幹が水を囲い込んでいます。
「この泉の水はね、この木の根の枠の中でゆらゆらゆれている限り、この世界で一番純粋な水なんだ。だから、この月の女神様の森に沸いて出ているときはね、不思議なことが起こるんだ。そら、木の根元に座って足を泉の中につけてごらん。そして目を閉じるんだ。そうすると、いままで月の光に照らされていた地上のいろんなことが見えるよ。」
 僕は、泉の精に言われたとおりに、木の根に座って泉に足を入れてみました。きれいに澄んだ水は、思ったより冷たくありませんでした。
目を閉じると、最初は暗闇しか見えませんでした。でも、しばらくすると、遠くのほうから声や音楽が聞こえてきました。そのうち、それはどんどん大きくなって、やがて目を閉じたままの僕の目の前にいろんなものが見えてきました。
最初に見えたのが、子供たちでした。僕よりも少し小さい子供たちがたくさんいました。
よく見ようと思って目を凝らしていると、どうやら何人かの子供が、よってたかって一人の男の子をいじめているようでした。いじめられた男の子は、石を投げられたり体に落書きをされたりしていました。それを、遠くで腕を組んでいる男の子がうれしそうに見ています。やがて、いじめが済むと、子供たちはそれぞれの家に帰っていきました。いじめっ子のなかで、いじめっ子をたきつけていたさっきの子供も、暗くなっていく空を見ながら帰りました。ひとり、また一人と仲間と別れて行き、男の子は一人ぼっちになりました。
僕は、その男の子がすごく寂しそうに見えました。
男の子は、ふと立ち止まり、帰り道にあった公園でひとり、ブランコを揺らせていました。そして、夕日が沈む空に一番星を見つけました。


本当は、いじめなんてどうでもよかった。最初にいじめを始めた奴が、いつしか集まって自分がリーダーになっていた。一番声が大きくて一番体ががっちりしていたから。だから、やめられなかった。誰かをいじめているのは嫌だった。でも、一人ぼっちはもっと嫌だった。だからいじめを続けていた。家に帰っても誰もいない。お父さんとお母さんの顔をした意地悪な奴が、「お前は一番になれ」っていつも、いつも同じことを言っている。なんでも一番になって、一番いい学校に行って一番いい大人になるんだって。
でもそんなものはどうでもよかった。
一番星は嫌いだ。
いつも、一番星にたとえられて、嫌な奴らが僕を部屋に閉じ込めて勉強ばかりさせる。ご飯をたくさんかきこみたくても、お行儀よくしないとご飯はあげないよと怒られる。怒られてばかりで疲れた。
一番星は嫌いだ。
作品名:夜の木 作家名:瑠璃 深月