夜の木
「そんな! そんな世界に希望は、希望はあるんですか?」
僕は、大樹が心を閉ざしてしまった理由がこのときハッキリ分かりました。
これが『悪業』というもので、こんなに悲しくてひどいことが「珍しくない」世界。
その世界に月や星の光を投げかけても、バカバカしいだけだ。
「こんな世界に、希望はないよ」
うなだれる僕に、大きな人は、微笑みかけてはくれませんでした。
「こんな世界、か。本当にこれが、この世界の全てだと思うか?」
「え?」
「お前が今まで見てきたものは何だった? 見た目だけでは分からない人間の心の奥底にある希望を見てきたんだろう。ならば、この残酷な戦場にも何かがあるはずだ。それを探せばいい。答えはいくらでもある」
そう言って、大きな人はどこかへ消えていってしまいました。
この残酷な戦場にある「希望」
僕は、何がなんだか分からないまま、恐ろしい死体の山を見守っていました。まだ、たくさんの死体の上にいろんな映像が出たまま残っています。僕は、涙を拭きながらそれをひとつずつ見て回りました。
すると、どこかで声が聞こえました。
赤ちゃんの泣き声です。
僕は、目の前の映像を操って、その場所を探しました。
何時間探したでしょうか。町のはずれにあった若い男の人の死体の上に、元気な赤ちゃんが浮いていました。僕は、何故か許されたような気がして、その赤ちゃんに手を触れようと、手を伸ばしました。すると、僕の手を握り返したのは、僕よりもっと大きな手でした。その瞬間、僕の目の前のスクリーンは一気に変わって、一人の女の人が麦畑を見ている姿を映し出しました。おなかが大きくて、僕はすぐに、この人がもうすぐお母さんになるんだと分かりました。
女の人は、麦畑を見ながら泣いていました。手には、軍隊からの手紙が握られていました。手紙には、「戦死」とだけ書いてあるのが見えました。
「泣かないで、キャサリン」