リーンカーネーション・サーガ
とっさに僕は能力(Rule space)を最大限、発動させた。
すると、自分を中心にした半径5メートルの球体の範囲に白い光が広がる。
なんとか、ここの部屋はカバーできたようだ。
支配空間内(Rule space)は音が遮断されて静かだった。
僕は恐る恐る周りを確認した。
僕以外のみんなは床に伏せている。
それ以外の周りは窓とそれに付随する壁を覗いて全て吹き飛んでいた!
屋敷が直撃を受けたらしい。
まさに間一髪!
すると、最初の3機(1機だと思っていたが3機だったらしい)が旋回して、戻ってくるのが見えた。
こちらの竜騎士らしいワイバーンが雷の魔法や炎の魔法で攻撃しているのが見えるが、
相手が鉄製の飛行機だからか、効果は確認できない。
恐らく、機体自体にも強化の魔法がかかっているのだろう。
僕は、とっさに、近くの従士に駆け寄った。
近衛騎士団には珍しい黒髪の女の従士だった。
暗殺者対策で、黒魔法が使える従士を派遣したらしい。
そんなことをふと思ったが、今は確認している時間もおしい。
僕はその従士に、
「ダガーをあるだけ貸して!
直ぐに!」
と叫んだ!
従士の女性は驚いて顔を挙げたが、即座に体に巻きつけていたダガーナイフを
5本ほど引き抜き
「殿下、どうぞお使いください!」
と渡してくれた。
僕は、こちらに再度向かってくる飛行機を見つめた。
僕は心の中で呟いた。
『僕の考えが正しければできるはずだ!
僕の能力内でならば物理現象は自由自在なはず!』
敵機を凝視すると、空間内の光の屈折率が変わり、望遠鏡で覗いているように
近くに敵機を確認することができた。
僕は、手に持ったダガーから二列の平行した電位差のある電気的ラインをイメージする。
すると火花が散ってプラズマが走り、2本のラインを形成した。
僕は、そのラインに乗せるようにしてダガーを投げた!
すると「ガガーン」といったすさまじい衝撃音が鳴り響いた!
見ると敵機の向って右側のプロペラエンジン部分が吹き飛んだのが確認できた!
やった!
『レールガン(Railway gun)』(超電磁砲)だ。
さっきの音は、ダガーが音速を超えた為に起こった衝撃波(ソニックブーム)の音だ。
聞いた話だと恐らく初速で3km/s(マッハ9)は出ているらしい。
音速は、秒速340m(340m/s)だ。
拳銃では230 〜 680m/s、ライフル銃でも750 〜 1,800m/s程度、だからまさに桁違いの速さだ。
その為、貫通力は通常の弾丸の比ではない!
僕は、つづけざまに残り4本とも他の2機に2本づつ投げた!
再度、激しい音が鳴り響く。
敵機は、燃料にも引火したらしく、海に落ちていくのが確認できた。
後続の3機が接近する気配(音)は聞こえてこない。
恐らく、先鋒の隊が撃ち落されるのを見て、こちらに向かうのを止めたのだろう。
この世界での人間の耳はかなり遠く(2、3キロ)まで集中すれば聞こえるので、それ(2、3キロ)以上離れていると思われた。
僕は、それを確認し、ゆっくりと自分の空間で支えている床と一部の壁を地面に降ろす。
それを執事達は、ビックリした顔で周囲を見ては、僕を見ていた。
床を地面に降ろしおえ、能力を切ると壁が派手な音を立てて倒れこむ。
僕は、それを無視して、直ぐに駈け出そうとした。
だが、その前に、従士の女性が両手を広げ立ちはだかった。
「ちょっと!
じゃまをしないでよ!」
と、つい叫んでしまっていた。
女性は片膝をついて、膝まづくと
「リーン王子殿下、お気持ちはわかりますが、ここは、我らにお任せくださいませんでしょうか。」
と言ってきた。
僕は、その女性を見たあと、周りを確認した。
屋敷は完全に爆風で吹き飛んでいて、所々に警備をしていた人たちが倒れているのが確認できた。
そして、城を見てみると、いくつかあった塔はすべてくずれ落ちて瓦礫の山と化し、所々炎が上がっていた。
すると、不意に空から滝のような雨が降ってきた!
誰かが風と水の複合魔法を使っているらしい。
海の方に竜巻が見えた。
どうやら、海水を巻き上げて、雨を降らしているようだ。
この状況では、母がいたであろう王室がどこだか確認できない・・・
僕は途方にくれ、その従士の女性を再度見、
「あなたは、母さんの居場所がこの状況でもわかりますか?」
と茫然とした顔で聞いていた。
するとその従士の女性は、
「私の黒魔法は探査に優れています。
瓦礫の下や隠れた敵を探すのが私の任務でもありますので、
どうか、私にお任せ願えませんでしょうか。」
と言ってきた。
僕は、少し考え、
「分かりました、ですが瓦礫の撤去などは無理ですよね?
僕の能力ならば撤去は容易にできます。
ですので、僕も同行させてください。」
すると、従士の女性は他の執事やメイドに目配せし、
「了解いたしました。
ですが、私の言うことには従っていただきますがよろしいですか?」
僕は、どうしても同行したかったので、了承し、頷いた。
すると、女性が
「リーン王子殿下、遅ればせながらご挨拶がまだでした。
私は、近衛騎士団リオン遊撃隊所属の『マリアンヌ・デュファ』と申します。
微力ですが、精いっぱいお役に立つよう頑張りますので、どうぞよろしくお願いいたします。」
と言ってきた。
僕は
「リーンです。
こちらこそよろしくお願いします。
後、少し時間をください、用意しますので。」
と言い、右手を頭上に広げ、再び空間を展開し、金属が集まるよう念ずる。
すると見る見るうちに半径5メートル内から金属が集まってきた。
(従士や執事達の体からは持ってこないように意識する)
あっという間に、フォークやら剣やらナイフなどが集まって一塊になった。
僕は、適当にナイフを2、30本つかんで、近くに落ちていた皮ひもでくくって小脇に抱えた。
それと大振りのダガーナイフを一本腰のベルトに差した。
これで、弾丸替わりのナイフと、接近戦用の武器が確保できた。
すると、さっきまでの雨がやんでいた。
火もあらかた消化されたようだ。
僕は
「じゃ行きましょう
しっかり、つかまってください。」
と従士の女性(マリアンヌ)の手をつかんだ。
そして、執事(アレクシア)達に振り返ると、執事にむかって
「アレクシアさん達は怪我をした人たちの救助と手当をお願いします」
と言ってから能力を発動し、
自分の周り(従士:マリアンヌ)を含んだ範囲に空間を展開し、
『上方向に重力落下を意識してから城側に向って重力の落下方向を変化させた』
(念動力の継続使用は消耗が激しいらしいく、空間内の法則を変異させた方が消耗が少ないと感じたので)
すると、あっと言う間に、僕たちは50センチ浮いた後、城の方向(横方向)に『落ちて』いった。
自由落下なので、上手く抵抗がつくよう両手を広げる微妙な体勢は念動力でカバーする。
横をみるとマリアンヌの顔が引きつり僕の小さな手を両手でつかんで凝視し、
「で、で、殿下!
こ、これは、いったいなんですかーー!!」
と叫んでいる。
僕は、
「今は、説明している時間がないから後で話すよー!
しっかり、手を握っていてください!」
と叫び返した。
作品名:リーンカーネーション・サーガ 作家名:八咫烏