リーンカーネーション・サーガ
城まで約700メートル、直前で僕は、徐々に重力方向を正常に戻すのと同時に
念動力で自分たちの体に(物体にしか能力は作用できないので体に接触している空気中の分子に)
ブレーキをかけ、地面に着地した。
マリアンヌは、腰が砕けたように、その場にへたりこむ。
『まあ、いきなりバンジージャンプまがいの事を経験させたから仕方がないが・・』
僕は、そんな彼女に悪いと思いながら、
「マリアンヌさん!
ちょっと驚かせてしまいましたが、急いでいたのですみません!
取りあえず、探索魔法をお願いします!」
と焦りながら、叫んだ。
マリアンヌは、少し呆けていたが、ハッとして、こちらを振り向き、頷くと
何やら目を閉じ呪文を唱え始めた。
僕からは、彼女の黒いオーラが濃さを増していくにのが確認できた。
すると彼女は目を見開き城の瓦礫の山を凝視した。
彼女の目(通常は黒色)は虹色に輝いている。
どうやら人のオーラや気配が探知できるようだ。
しばらく、あたりの瓦礫を見た後、彼女は、不意に瓦礫の上の方の四角い箱の形
をした石作りの塊を指さした。
僕もよく見てみると、そこだけ不自然に崩れずに正方形を保っている。
他は崩れているのに、そこだけ、(まるで四角い部屋が)壊れずに残っているように見えた。
僕たちは急いで瓦礫の山をよじ登って近づく。
その塊に手を触れると、魔法力のような力を感じた。
おそらく、中から誰かが壁というか部屋全体に強化魔法をかけていると推測できた。
すると、魔法力の変化が感じられた。
何だが、爆発するような振動?
僕は、とっさにマリアンヌにしがみつついて、能力を発動した。
「マリアンヌさん伏せて!」
その直後、その塊が弾けた。
どうやら塊の中の誰かが、壁を吹き飛ばしたらしい。
あたりにもうもうと煙が立ち込める。
すると、煙の向こうから怒鳴り声?というか言い合っている声が聞こえてきた。
落ち着いた声が
「兄上、もう少し、穏便に魔法をかけて頂けないものですか?」
すると、大仰な感じの声が
「アルベール!なにを悠長な事をいっている、どこぞの敵が攻撃していたのだぞ!
こんなところにいつまでもいられるか!
直ぐに軍を招集して反撃せねばならん!」
とどなり返している。
僕は、そっとその様子をうかがった。
その直後、アルベールと名指しされた人物が僕らを方を振り向き
「そこにいるのは誰だ!」
と叫んだ!
僕はとっさに身を屈めたが、マリアンヌが即座に直立し、
「近衛騎士団リオン遊撃隊所属の『マリアンヌ・デュファ』であります!
未確認の敵の攻撃で、陛下や王子殿下のご様子が心配されましたので、取るものも取りあえず
参上いたしました。」
と即座に応答した。
すると、他の若い男性が
「マリアンヌか!
お前一人か?」
よく見ると、リオン先生だ。
リオン先生は、母の護衛も兼ねて、今日は、母と共に陛下の寝室に出向いていたはずだ。
ということは、ここは、陛下の寝室で、今、怒鳴り合っていたのが、第一王子と第二王子か?!
母は?母さんはどこに?!
無事なのか?
よく見ると、寝台の脇に、一人の女性と、男性が寝かされている!
寝台には陛下らしい男性が、寝台の脇には、白衣を着た初老の男性と、まだ若い女性!
母さんだ!
僕は、がばっと起き上がり、駈け出していた。
マリアンヌが、
「王子おまちください!」
と呼び止めるのも構わずに走り出す。
母の横で膝をつき、顔を覗きこむ。
顔はかなり青ざめて、血の気がない。
腹部に手当の後が見られる。
どうやら出血しているらしい。
僕は、リオン先生を見て、
「リオン先生!
母は怪我をしているんですか?!
ここが陛下の寝室なら、医者も一緒にいますよね?!」
リオンは、静かに首を横に振った。
そうしてこう続けた。
「医者は、その隣に寝ている男性です。
すでに息はありません。
最初の攻撃で、背中に爆風を受けて・・・
メアリ様も陛下を庇い、爆風で飛んできた破片が腹部に刺さり・・
手当はしましたが・・これ以上、手の施しようが無い状態です。」
すると、母がうっすらと目を明け、僕に笑いかけた。
僕は、思わず手を握り叫んでいた。
「母さん!
しっかり!
こんな事で居なくならないで!」
と叫んでいた。
この世界に来て、無二の愛情を向けてくれた母。
「無色」ということでかなり形見が狭かったことだろう。
でも、やっと、魔法とは違うが、人に認められそうな能力がある事がわかり、
恩返しできると思ったのに・・・
こんな形で分かれてしまうなんて・・・あまりに母が不憫だ。
前の世界では、母との関係は良くなかっただけに、悔しい思いでいっぱいになった。
いつの間にか、止めどなく涙が溢れてきていた。
すると母は、僕の頬に手を当て、
「リーン泣かないで・・・
男の子でしょ。」
とかすれた声で言ってきた。
「リーン、これから言うことをよく聞いてね。
私は、どうやらあなたの成長を見届ける事ができそうにないわ。」
僕は、思わず
「そんなことない!
まだ諦めるのは早いよ!
きっと、他の医者がすぐに駆けつけるから、それまでがんばって!」
だが、母は手を挙げて、僕の言葉をさえぎり
「リーン、自分の事は自分で良くわかっています。
ですから、気をしかっり持って、聞きなさい。
前々から、私の母。
あなたのおばあ様に、あなたの事を養子に迎えてもらえないか打診していました。
正式なお返事はまだ、いただいておりませんが、この国がこの様な戦争状態になるのなら、きっと、引き受けて
いただけると思います。
ここに、親書があります。
これを持って、おばあ様の『エヴァ・カストラート』を訪ねなさい。
カストラート公国は、この国から南にある平原に居をかまえる王国です・・・
麦の収穫時期にはそれはもう一面が黄金色になるとても美しいところですよ・・・
私の故郷でもあります・・・
できれば、もう一度、あそこにあなたと一緒に行きたかった・・・」
僕は、黙って、母の手を強くにぎり返し頷く。
「母さん、大丈夫、きっと一緒に行けるよ。
だから、頑張って!」
と言っていた。
すると母は首を横に振り、胸元から短剣をだし、差し出した。
「これは、婚姻の時、陛下から守り刀としていただいたものです。
私にはもう必要ないものです。
これからは、これがあなたを守ってくれるでしょう。」
と僕の手にペンドラゴン家の紋章(水龍)入りの豪華な短剣を握らせた。
「どうか、あなたの未来が幸せで溢れていますように・・・」
と言った途端、母の手から力がいっきに抜けたのを感じた!
僕は、泣きながら叫んでいた。
「母さん!
まだ、何も恩返ししてないよ!
こんなんで死んじゃうなんてあんまりだ!
母さんがどんな悪い事をしたっていうんだよ!」
僕は、母の胸元に顔を埋めて泣いていた・・・
しばらく、まわりの人達は、僕の様子を黙って見ていたが、
第二王子のアルベールが口を開いた。
「リーン、初めまして、私はお前の上から二番目の兄『アルベール』だ。
メアリ様の最後のお言葉は、聞かせてもらった。
メアリ様の言うとおり、これからこの国は戦争状態にはいるだろう。
お前の様な子供たちは、安全な場所に避難させなければならない。
作品名:リーンカーネーション・サーガ 作家名:八咫烏