リーンカーネーション・サーガ
まさにネコのように空中で体が回転し、地を獣のように駆けることが出来た。
この素早さは、この世界の人間なら当たり前なのかとも思ったが、案外そうでもないらしい。
僕は極めて敏捷性があるとの事だった。
「リオン先生」は、他に仕事があるらしく、剣の稽古はいつも午前中で、昼すぎからは、母とメイドさんから
勉強を教えてもらっていた。
勉強は読み書きと、算数だった。
読み書きは普通の子供と変わらないようだったが、算数は、さすがに元が高校生。
しかもこの間まで猛勉強していたとの事もあって、かなり物足りなく、「魔法学院」で習う数学
や魔法式を教えてもらった。
これには、母やメイドはかなり驚き、天才だと大喜びした。
自分としてはなんだかズルをしているような感覚だったのでかなり気が引けていたが・・
その中で、魔法に関して、自分は魔法が使えない「無色」である事を知った。
この事を話す時、母はかなり迷っていたようだった。
自分としては、元々魔法なんて無い世界から来ているので、生きる分には、魔法は、必要ないのではと思っていたので、
「母さん気にしないで、魔法なんかなくたって生きていけるよ!」
と本気で答えていた。
しかし、それだと気になるのは、あの集中すると発動する「白いオーラ」だ。
この事について、それと無く母に聞いてみた。
母が言うには「魔法を発動する時に、オーラの色が濃くなったり、広がったりする現象がある」との事だった。
ということは、なんらかの魔法が発動していると、考えられると自分は思った。
できればもっと詳しい人に聞きたいと思ったが、
「「リオン先生」は魔法も使うけど・・・事象とか原理とかそんなには詳しくなさそうだし」
他にもっと詳しいそうな人物は、この屋敷の中にはいなさそうだった。
そんな日々が3年ほど過ぎた。
僕の体格は6、7歳児ぐらいの大きさになっていた。
見た目は、少年ではなく、少女にしか見えない。
しかもとびきりの美少女!
かなり、母に似ている。
これは・・我ながらどうしたものか・・以前の世界での外見からかなり
かけ離れてしまった。
猫耳で白髪と言うこともあるが・・
鏡を見るたびにビックリするのが我ながらどうしたものか悩ましい・・
髪の長さもこの国の王族は成人とみなされる7歳までは伸ばすとの話なので、
今は背中の中ほどまで伸びて、毛先を揃えている。
じゃまなので、三つ編みにしてひとまとめにしてはいるが、
これはこれでかなり可愛い感じになってしまっていた。
男ものの服装はしているが・・・
それはそれで活発な少女のような印象しか与えない・・
そんなある蒸し暑い夜だった。
僕は、生後半年ぐらいから自室をあてがわれてそこで寝起きしていた。
深夜、不意に窓の方から人の気配がした。
自室はこの屋敷の二階で、今日は蒸し暑かったので、窓を開けて寝ていた。
その気配に窓の方を確認したが、何もいない・・・
どうしても気になったので、意識を集中して視てみる。
集中すると、部屋に虹色の空間が広がっているのが確認できた。
その中に真っ黒い人影のようなものが視えた!
人影はゆっくり近づいてくる。
手には何か黒い刃物のようなものが視えた!
リオン先生からは感じなかった殺気のようなものを感じて、僕はベットから跳ね起き、身構えた。
その様子を黒い影はあっけにとられた様子で見ていたが。
黒い影は自分の存在が「視えている」と気づき、一機に間を詰めてきた。
僕は、逃げる方向を遮られ、身構えるのが精いっぱいだった。
子供にしては、いくら素早い方だといっても、訓練された暗殺者のプロには到底かなうはずもなかった。
魔法を付加されたとみられる黒い刃が眼前に迫った!
だが、刃は、僕には届かなかった。
僕の眼前で刃は弾けて消えた!
黒い影も静止している。
目を見張ると僕が無意識につくりだした、白いオーラの空間の中に
黒い影は、右腕から肩にかけて、完全にその部分だけ「停止」していた。
白いオーラの中の腕は、真っ黒な衣装で、黒い手袋をはめているのが確認できた。
それに比べて、白いオーラの外の体は黒くぼやけて、もがいているように視える。
その黒い影は手を引き戻そうと力を入れているようだったがビクともしない。
僕は、思わず黒い影の右手親指を両手でつかみ、ねじるように自分の全体重をかけてひねって投げ飛ばした。
黒い影が勢いよく壁まで吹き飛び、壁に当たった。
盛大な音が屋敷中に響きわたる。
すると、人が駆け上がってくる音が聞こえた。
「殿下!殿下!ご無事ですか!」
その声を聴く前に黒い影は、右腕を抑えながら、窓から姿を消していた。
ドアが荒く開け放たれ、母と執事とメイドが入ってくる。
僕は生まれて初めて(前世も含めて)の生死をかけた戦いが終わって力が抜けていくのを感じていた。
翌日の早朝「リオン先生」が事の顛末を聞くとすぐ、つき従っていた従士に今後、この離宮を
交代で警備するよう命じていた。
リオン先生はに不審者にきずいて、とっさに相手の親指をつかんで投げ飛ばした所だけ
を伝えた。
なぜか、自分の白いオーラについては話をする気になれなかった。
リオン先生は稽古には厳しいが、基本的には優しく、いい人だ。
しかし、時折、厳しい目で、自分を睨んでいる事がある・・・
何か、僕や母に隠し事をしているのではないかとつい勘ぐってしまっていた。
その日の昼過ぎ、昼食の後の午後の勉強を始める前、
僕は、昨日の夜の自分のオーラをどうしても検証したくて、裏庭の人に見えにくい小さな林の中
に赴いていた。
昨日の暗殺者と思われる賊を止めた現象を今一度確認したかった。
僕は目を細め、気を集中する。
すると白いオーラが自分の周り半径5メートルぐらいに広がった。
これは、日々寝る前に練習していて、徐々にオーラの範囲を広げることに成功していたからだ。
ちなみに昨日はとっさだっとので、半径1メートルにも満たない大きさ(80cmぐらい)だった。
自分は、魔法が使えないとは言われてはいたが、このオーラがどうしても気になっていて、僕は日々練習していた。
いつも部屋の中で行っていたので、外で発動するのは初めてだった。
ふっと周りを見渡すと、蝶が飛んでいた。
蝶は緑色の幾何学模様だったが、自分の作りだしたオーラの中に入ると「白色」になって飛んでいた!
また、足元をよく見ると先ほどは青色の花が足元に咲いていたがこれも「白色」になっていた!
母から聞いた話を思い出す。
「世界の生き物は多かれ少なかれ魔法の影響を受けていて、影響を受けている生き物は
影響を受けた魔法属性の色を出しているのよ」と・・・
であるならば、この色が消えた現象は、「魔法力を消し去っている」ということか!
昨日の刺客は、この白いオーラの中に入った為、魔法力が込められた短剣は消滅し、魔法をかけた体が止まったのか?
でもそれだと、今、そこを飛んでいる蝶の説明がつかないか・・・
魔法力を失っていても、生き物としての活動は変わらないように見える・・
僕はおもむろに、足元を見た。
そこには小石があった。
もしかして、生きていない無機物の場合、この白いオーラの中でなら、僕の意志が作用するのではと考えた。
作品名:リーンカーネーション・サーガ 作家名:八咫烏