自作お題小説『甘』
いちご・オレ
ケンカをした。
理由なんて、あまりにも些細なこと過ぎて忘れてしまったけど…
お前があまりにも捲くし立てるから…
オレもついつい意地になっちゃって……
普段ならすぐに出てくる『ごめん』の言葉が
今日に限って中々出てこなくて
「もういい!」
と大声で叫びながら寝室に入っていったお前を
追いかけることをしなかった。
どうせすぐに出てくるだろう
どうせすぐに忘れるだろう
そんな風に思っていた
今回は絶対俺は謝らない。
毎回あいつが悪いんだから
絶対謝ってくるまで許してやらない。
固い決意をして、ソファーに座った。
テレビの音量を大きくして
わざとらしく大声で笑った。
『全然気にしてません』と言わんばかりのその態度は
逆にそれを主張しているとも知らず、俺は一人笑う。
「あ〜おかしい。」
一段落をして立ち上がる。
お茶でも飲もうと冷蔵庫に向かった。
無駄に大きな音を立てながら、開けた冷蔵庫。
中にはあいつの大好きな『いちご・オレ』
何だか急に切なくなって…
そのパックを手に取った。
500mlのパックを手に寝室へ向かう。
ガチャリと開けると、ベッドに体ごと丸め込んだお前がいた。
頭も顔も何もかもシーツに隠れていて
今どんな顔をしているのか判らない。
「おい、寝てんのか?」
妙な意地で出た、強めの口調。
「寝てる。」
布団の中から篭ったお前の声。
(寝てねーじゃん…)
心の中でツッコミながら、ベッドに近づく。
ベッドに腰を下ろすと、
ギシッとスプリングが軋む音がした。
微動だにしないお前に、俺はため息をついて一言。
「いちご・オレ。」
その言葉にお前は一瞬体を揺らせて…
それでも体制は変えずに。
「飲まないなら、飲んじまうぞ。」
ポソリと呟いたら、
ガバリと布団から起き上がって
「ダメっ!!」
と手の中のいちご・オレを奪われた。
お前はブツブツ文句を言いながら
それにストローを刺して一口。
緩んだ顔があまりにも無防備で、思わず笑ってしまった。
「何?」
訝しげな顔で睨んでくるお前に、
俺はもう一度笑って……
「ごめん。」
呟いた一言。
お前はプイとそっぽを向いて、ストローをかじる。
「許してあげるけど……これはあげないからね。」
そう呟いた後姿。
横髪に隠れた耳が、うっすら赤らんでいた。
お前の大好きな…甘い甘い…いちご・オレ
だけど……
お前には…もっと甘い…俺
お前の大好きな……いちご・オレ
それよりももっと甘い……俺
そんないちご・オレよりも甘い…俺を愛して?
終わり 09/12/22