自作お題小説『壊』
進まない懐中時計
チッ チッ チッ
静かな部屋。
時計の音だけが鳴り響く。
机に突っ伏した顔。
うつ伏せのまま少しだけ顔を右にずらして見た懐中時計。
あなたが残していった懐中時計。
チッ チッ チッ
鳴り響くそれが…
鳴り続くそれが…
余計に孤独を感じさせた。
パカリと開けて見た時計の盤面。
レトロな数字。
長さの違う二本の針。
「…………?」
何かに気付いて顔を上げた。
チッ チッ チッ
音は確かにしているのに……
二本の針は少しも動いていない。
微動だにしないそれを見て、笑った。
「ふふ……お前も進めなくなったの……?」
あなたを失ってから…
恋人(所有者)がいなくなってから……
私達は……ずっと進めずにいるんだね……
「あの人を…忘れる事なんて……出来ないよね……?」
進まなくなった懐中時計に…キスを一つ落した。
終わり 08/11/06