自作お題小説『色』
(色)アクアグレーの扉
あぁ…くそっ…
何で俺がこんな目に遭わなきゃいけないんだ
肌寒くなってきた季節
時間はもうじき深夜になろうという頃
俺は一人で暗い夜道を歩いていた
ついさっきまでは小柄で可愛い彼女と歩いていたと言うのに…
何が悲しくて、一人寂しく歩かなきゃいけないんだ…
この夏出来た彼女
向こうから声をかけてきた
それなのに…
この仕打ちはないだろう?
数時間前に叩かれた左頬がピリピリした
どうしてこんな事になったのかなんて、もう忘れてしまった
結局彼女は俺の上辺しか見ていなかったって事
むしゃくしゃしながら俺はアクアグレーの玄関のインターホンを押した。
今が深夜だって事も…
寝ているかもしれないって事も…
忘れていた
「どうしたの?こんな夜中に。」
不機嫌そうな顔で出てきたのは、大学の頃からの友達。
女のくせにサバサバした性格は、俺とピッタリの相性で…
まぁ…いわゆる女友達
何でも話を聞いてくれて…
何でも話を聞かされた
「何?また振られたの?」
俺の左頬を見ながら、お前が言う
「そんなんじゃねーよ。」
ぶっきらぼうに返事をして、承諾もなく部屋に上がった。
「全く…あんたも相変わらずだね。」
ため息を付きながら冷えたタオルを渡されて、俺も素直にそれを受け取った。
「何だよ。相変わらずって?」
俺の言葉にもう一つため息を付いて、お前がキッチンへ向かう。
「どうせまたカッコつけて彼女にいい顔ばっか見せてたんでしょ?」
図星の俺は返す言葉がなかった。
だって…男なら好きな子にいいとこ見せたいだろ?
「女の子はね、そうゆうのすごく敏感なんだよ。
悩んでるなら…本当に好きなら…言わなきゃいけない事だってあるんだから。」
両手にコーヒーを持ったお前。
その一つを俺に渡して、ベッドに腰掛けた。
「泣きたいなら、泣けばいいじゃんない?」
そう言ったお前に驚いて顔を上げる。
「そんなんじゃねーよ。」
なぜだろう…さっきから…
胸の奥の方がモヤモヤするんだ
「そう?」
それだけ言って、お前は俺に背を向ける。
何だよ?
このモヤモヤは…
何だよ…
この気持ちは…
そういえば…
何で俺はここにきたんだっけ?
どうして…
コイツの前ではカッコつけない俺でいられるんだ?
数え切れない疑問が頭に浮かんで…
目の前に座るお前を見た。
「あ…」
小さく声を漏らしたら、お前の肩がピクリと反応した。
だけど…お前は振り返らずに…
きっと…意識だけを俺に向けている
何だよ…
「………くそっ!」
お前の傍は…
俺にとっての、安らぎの場所なんじゃねーか
その事に今更気付いた俺。
情けない…
これじゃぁ灯台元暗しじゃねーか…
「帰る。」
それだけ言って立ち上がった俺に、お前も慌てて立ち上がる。
俺は玄関の扉を開けて
「サンキューな。」
小さな声でそう言った。
お前は満面の笑顔になって、俺を見送った。
ゆっくり閉まる玄関の扉を見て、俺はその場を後にする。
今度…その扉を開けるのは…
俺の気持ちが落ち着いてから…
お前に告げる言葉が決まったら…
もう一度…そのインターホンを押すから…
出来れば笑顔で開けてくれよな?
その…アクアグレーの扉を…
終わり