自作お題小説『色』
白いカーテン 1/3
どちらかと言うと、人付合いは苦手な方。
趣味は読書だけど、それほど頭が良いわけではない。
目立たない容姿。
パッとしない性格。
今まで辺り触りなく生きてきた。
平凡な人生。
毎日通う図書室。
ここが唯一の憩いの場。
今日みたいな晴れた日の昼休みは、誰もいなくて清々しい。
(あぁ…また借りられてる。)
お目当ての本がこの一ヶ月、ずっと貸し出し中だ。
こんなに人がいないのに、誰が借りているというのだろう?
(しょうがない…この前借りたやつ、もう一回借りよう。)
そう思って窓際の洋書の棚に向かう。
(あ…。)
フワリと風になびいた白いカーテン。
その向こうに人影が見えて、足を止めた。
(あれは確か同じクラスの…?)
カーテンと窓の段差に寝転んでいる男の子。
(何でこんな所に?)
普段彼なら、いるはずもない場所なのに…
彼は…
喧嘩っぱやくて、乱暴で、不真面目で、いわゆる不良と呼ばれる部類に属する。
そんな彼がここにいるのに、物凄く違和感を覚えた。
「何見てんだよ?」
前から低めの声が聞こえて目を向けると、彼が上半身を起こしてこちらを見ていた。
「あ…すみません。」
慌てて謝った。
「どんだけ読むんだよ。」
ボソリと呟いた彼の言葉。
胸に抱えた三冊の本。
「す…すみません…。」
悪くもないのに謝った。
彼は少し不機嫌そうに、眉間にシワを寄せて…
また同じ場所に寝転がった。
(あの本は諦めよう。)
彼の真横の本棚にある、あの本は仕方なく諦めることにした。
(あ…予鈴。)
後ろの廊下から聞こえたチャイムの音。
慌てて貸し出しカードに記帳をした。
(行かなくていいのかな?)
カーテンの向こうのシルエットに動き出す気配はない。
(どうしよう…)
オドオドしながら、その場でウロウロ。
時計を見ると、結構ヤバイ時間だったので、意を決して彼に近づく。
「あの…予鈴…」
その言葉に彼は目を開けて、こちらを睨み付けてくる。
その鋭い眼光にビクリとして、やっぱ止めとけばよかったと思った。
「すみません…」
彼の視線に負けて謝って、巻くしあげたカーテンを元に戻す。
瞬間−−−−。
腕に痛みが走って、体が引き寄せられる感覚。
「えっ?何?」
カーテンの中に引き込まれて…
恐怖と後悔が同時。
「さっきからさ、謝ってばっかだな?」
固くつぶった目をゆっくり開けると、目の前にいた彼に驚いた。
「す…すみません。」
条件反射に謝ると、彼は意地悪い目をしてニヤリと笑った。
(え…?)
カーテンの中で抱き寄せられてされたキス。
腕の中から借りた本が音を立てて落ちる。
その音で我に返って、思わず彼の体を思いきり押し返した。
「いってぇ…。」
肩を押さえた彼が、痛みに眉を沈めた。
「すみませんっ!」
大きな声でそれだけ言うと、落ちた本も拾わずに、その場から逃げ出した。
遠くにチャイムの音を聞きながら、無我夢中で走った。
足音の向こう…
本鈴の隙間…
白いカーテンの向こうから…
「…………ちっ。」
小さく舌打ちの音がした。
終わり 08/09/23