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自作お題小説『色』

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(色)インディゴブルーの瓶


夕暮れ時の砂浜
波打ち際に点々と続く足跡
遥かなたの海に目を向ける後姿

(今頃貴方は何をしているのでしょうか?)

遠く旅立ってしまったあの人
私一人を残して…

『行ってくる』
笑って言った。

ねぇ…本当に帰ってくるつもりはあるんですか?
私の元に…戻ってくるつもりはあるんですか?

それなら…
どうして手紙の一つもくれないのですか?


[十五日未明、ロンドン行きの飛行機が墜落。
 乗客五百人の生死の確認を急いでいます。
 尚、乗客の中には日本人も数名含まれており
 そちらも合わせて確認中になります。]

テレビから流れていた昼のニュース。
私は聞かないふりをした。

けたたましく鳴り続ける電話のコードを
思い切りハサミで切った。

ねぇ…早く帰ってきて…

もう少し遅くなるのなら…
せめて居場所を伝えてください

これじゃぁ…手紙の一つも出せません


少しヒールの高いミュールで、波打つ海へ向かう。
押し寄せる波が冷たかった。

太陽が沈んで…
目の前に広がる、黒い海

昼の真っ青なそれは姿を変え、数メートル先も見えない。


黒い海の中に立つすくむ私の足に、コツンと何かが当たる。
ふと下を見下ろしてみると、波に揺られて漂う小さな小瓶。

思わず拾い上げて中を覗く。
貴方からの手紙が入っているんじゃないか?と。


小さく光ったインディゴブルーの瓶。
蓋も無かった瓶の中は、砂と塩水で一杯だった。


「…………っ……。」
硬く瓶を握り締めて、その場にしゃがみ込む。


せめて……
もう一度会いたい……

一目だけでもいい…
貴方に…逢いたい……

「早く…早く……戻ってきて……。」

私の呟いた言葉は、腕の中の瓶に吸い込まれていった。


手紙なんて書けなくていい……
ただ……伝えたい………


握り締めていた瓶を水に浮かべて、そっと波に乗せた。


もしも……
もしも…貴方が…どこかで……
この瓶を見つけたら……

このインディゴブルーを見つけたら……
そっと…耳を当ててみて……

きっと…
きっと……私の言葉が聞こえるはずです……

「貴方に…逢いたい……。」


真っ黒な海に漂う
インディゴブルーの瓶

どうか……
私の想いを届けてください……

世界で一番大切なあの人の元へ…

終わり
作品名:自作お題小説『色』 作家名:雄麒