自作お題小説『色』
(色)黄色い財布
ある晴れた昼下がり。
特にする事も無いので、繰り出した街中。
(あっ、あれ可愛い〜。)
繰り出したのはいいが、
バイト代がまだ出ていなかったので、今日はウインドウショッピング。
(ん…?)
歩いていた道路の端っこ。
無造作に生い茂る緑の中に、黄色がポツリ。
ゆっくり近づいてみると、そこには黄色いお財布。
(誰かが落としたのかな?)
それを拾い上げて、首を捻る。
仕方なく一番近くの交番に向かった。
「すいませ〜ん。」
なかなか普段では入らない場所なので、不思議と緊張した。
「すみませ〜ん、どなたかいらっしゃいませんか?」
中々出て来ないので、もう一度声をかける。
「はいはい、どうなさいました?」
のんびりとした口調で出て来た一人の警察官。
「「あの…」」
私の声と同時に、後ろから聞こえた声。
後ろを振り返ると、体格のよい男の人が立っていた。
「あっ!俺の財布!」
私の手の中を見た男の人が、嬉しそうに駆け寄ってくる。
「さっき…そこで拾って…。」
しどろもどろになりながら伝える。
「調度良かったね。じゃぁ一応確認だけこちらでしようか。」
相変わらずのんびりとした口調で、警察官が言った。
それから数十分、簡単な問答を繰り返して、私達はやっと解放された。
「あのっ、本当にありがとうございました。」
派出所を出たら、男の人がもう一度謝礼の言葉を口にした。
「いえ…」
私は少し赤くなって…ペコリと会釈をする。
だって…
あんまりにも、満面の笑顔で言うから…
ちょっとだけ…
タイプの人だったから…
「あ…じゃぁ…これで…。」
私はそう言って、その場を去ろうとした。
「あのっ!」
後ろから聞こえたその声に、私はもう一度振り返る。
「良かったら…お茶でもしませんか?」
照れながらそう言った顔…
どこかで聞いたような誘い文句…
私は少し笑って…
「じゃぁ…少しだけ…。」
そう言った。
終わり