自作お題小説『バカ』
(バカ)バカなりに…
「俺、高校卒業したら…東京行こうと思ってるんだ。」
ある日の帰り道。
何の前触れも無く言った彼。
「え?」
私は驚いて、ぴたりと足を止めた。
「向こうでやりたい事あるんだ。」
そう言って笑った彼が、やけに遠く感じた。
「こっちじゃ…出来ないの?」
すがる想いで尋ねた。
「…………。」
黙って頷いた彼。
「……そっか。」
私はそれしか言えなかった。
再び動き出した足。
重い沈黙が二人を襲う。
「お前はどうするんだ?」
沈黙を破ったのは彼の方。
「え?」
「卒業したら。」
「卒業したら?そうだなぁ…あんまり考えた事なかった。」
ボンヤリ考えて…だって…未来なんて判らないし。
「ちゃんと考えとかなきゃヤバイだろ?」
彼が笑って言うから……
「私も…行こうかな?東京……。」
ポツリと呟いた。
「え?」
今度は彼が驚きの声を上げる。
「お前はそれでいいのかよ?お前の未来だぞ?ちゃんと考えろよ。」
彼が諭すように言う。
「考えてるよ……。」
私は自信なさげに言った。
(考えてるもん……ちゃんと……
考えてるもん……バカなりに………)
ジワリと涙が出そうになるのを堪える。
「もし……もしそうなったら…俺は嬉しいけど……。」
あまりにも小さい声だったから、危うく聞き逃すところだった。
だけど……ちゃんと聞こえたよ。
私……決めました
たった今……決めました
やりたい事を探すなら…
私の未来を探すなら…
貴方の元で探そう…と。
終わり
作品名:自作お題小説『バカ』 作家名:雄麒