短編小説
自分だけの…後編
お前といると楽しかった…
友達なんて沢山いたけどお前といるのが一番楽しかった…
だけどお前はどうだったのかな…?
聞きたいけど…聞けなかった…
仲良くなった細かい経緯なんて覚えてないけど
お前はいっつも一人でいた…
この広い教室で黙って机に座ってた
そんなお前に声をかけた時はもう判ってたのかもしれない…
お前だけは特別なんだと…
「よっ。」
初めてお前に声をかけたのなんて、たいした理由なんかなかった。
友達がいっぱいいたら楽しいから…
「また一人?友達作んないの?」
「俺…人見知りだから…。」
お前は人見知りだと言うけど、人見知りなんてした事なかったから、全然感覚がわからなかった。
ナイーブなお前。
最初の内は話し掛ける度に嫌そうな顔をしてたお前…
ふとした瞬間に笑う顔にドキドキした。
自分だけが特別になった気がした。
不落の城を落とした時の優越感にも似ている。
お前と一緒にいるようになって毎日がすごく楽しくて。
他の友達と遊んでいる時とは全然違う。
そんなある日担任に呼び出されて、信じられない話を聞かされた。
あいつの成績が下がっているらしい。
『お前の遊びにあいつを振り回すな』と担任が言った。
何で一緒にいちゃいけないの?
人付合いって勉強よりも大切じゃない?
無表情で机に座ってたあいつより、今のあいつの方がイキイキしてるよ。
だけど…あいつにとってはそっちの方がいいのかもしれない…
無理矢理合わせてくれているだけかもしれない…
ねぇ…お願いだから…
あいつを取らないで…
学校生活がこんなに楽しいのも…
青春がこんなに輝いているのも…
全部あいつのお陰なんだ
ねぇ…お願いだから…
青春奪わないで…
悩みに悩んでお前の前に立った時、お前があまりにも泣きそうな顔してるから、思わず笑っちゃった。
このままでいいんだ。
そう思った。
少しでも同じ気持ちになってくれているのなら離れちゃいけないと思った。
大きな体のくせに繊細な心のお前が可愛かった。
あぁなりたいと思った。
短気で乱暴で自由奔放な自分が恥ずかしかった。
我慢なんて出来ないし…
他人の気持ちなんてお構いなし。
いつかお前に愛想つかれる日が来るかもしれない。
だけど…それまでは傍にいたいと思った。
いつでも隣にいたいと願った。
「泣いてるんじゃないからっ!」
こんな弱いとこ見せたくなかった。
いつでも強気でいたかった。
お前がカッコいいって言ってくれた姿でいたかった。
だけど…たまにはへこむ事だってあるよ…
泣きたい時だってあるよ…
そんな時くらい見て見ぬふりしろ!バカ!
「今度皆で海に行くんだけど、一緒に行こうよ?」
夏休みの計画。
お前を誘って。
お前がいなきゃつまんないし。
いつもみたいに『行く』って笑顔が返ってくると思ったのに…
少し考えたお前は『行かない』と言った。
笑って『付き合い悪いなぁ』なんて言ってみたけど。
内心ショックだった。
こんなに…?と思うくらい、心に大きな穴が開いた気がした。
そろそろ愛想つかれるの…?
バカな事に付き合うの疲れた…?
最初は誰にも心を開かなかったお前。
いつの間にか知らない友達が増え…
お前が離れてく気がした…
お前はいいやつだから、皆が好きになるのは当たり前で…
そんなの最初から判ってたのに…
初めから判りきってたのに…
何となく嫌だった…
一番最初に友達になったのに…
お前の良さに一番最初に気付いたのに…
我が儘なのは判ってる。
理不尽なのも判ってる。
いつも…
お前といると楽しかった…
友達なんて沢山いたけどお前といるのが一番楽しかった…
だけどお前はどうだったのかな…?
聞きたいけど…聞けなかった…
終わり 前編主人公の一人称を何にしようか迷った。
『あんた』か『あなた』か『お前』……
悩んだ末に『お前』に決定。
後編主人公は一人称を決めていないので、
女でも男でも見れるようになってます。
恋愛でも友情でも……?