短編小説
自分だけの…前編
お前がいれば他には何もいらなかった…
お前がいればそれで良かった…
だけどお前はそうじゃなかったって事…
ただ…それだけの事…
誰とでも仲良くなれるお前
お前の周りには常に沢山の人がいて…
俺はその中の一人に過ぎなかった…
お前にとっての俺は沢山の中の一人かもしれない…
だけど俺にはお前だけなんだ…
「よっ。」
こんな俺にもお前は声をかけてくれて、笑いかけてくれた。
「また一人?友達作んないの?」
「俺…人見知りだから…。」
極度の人見知りの俺と、人見知りの『ひ』の字も知らないようなお前。
正反対な俺達。
お前は俺の心に土足で入り込んで来て…俺の心を乱す。
腹立たしい反面、嬉しかった。
お前と一緒にいるようになって俺の生活はガラリと変わった。
トップクラスだった成績はみるみる内に下がっていって、そんな中黙っていられなかったのは、親と先生。
親は『あんたの為を思って言ってるのよ』と泣いた。
仕方ないじゃないか…
未来の為の勉強よりも、現在(いま)のあいつの方が、俺にとっては大事なんだ。
先生は事もあろうことか、俺ではなくあいつを呼び出した。
俺がこうなったのは俺のせいじゃないか…
あいつは何も悪くない
ねぇ…お願いだから…
俺からあいつを取らないで…
俺の学校生活がこんなに楽しいのも…
俺の青春がこんなに輝いているのも…
全部あいつのお陰なんだ
ねぇ…お願いだから…
俺の青春奪わないで…
そんな俺の不安をものともせず、お前の態度は全く変わらなかった。
そんな所に憧れていた。
自分の生きたい様に生きるお前が羨ましかった。
小さな体で自己を主張するお前がカッコ良かった。
あぁなりたいと思った。
だけどお前になれないのは判ってる。
それなら少しでも傍にいたいと思った。
いつでも隣にいたいと願った。
「泣いてるんじゃないからっ!」不意に見たお前の弱さ。
俺はそんなお前を守りたいと思った。
こんな俺がそう思った。
お前は頼りないと笑うかもしれない…
お前は冗談じゃないと怒るかもしれない…
だけど俺はそう思ったんだ。
「今度皆で海に行くんだけど、一緒に行こうよ?」
笑顔でお前からのお誘い。
嬉しくて嬉しくて有頂天になった。
だけどそのあと少し考えて『行かない』と言った。
拗ねたお前の唇。
その尖った唇にドキッとした。
だって…見たくないから…
お前と別の人が仲良くしてるの…見たくないから…
誰にでも分け隔てなく接するお前。
男も女も関係なく…
誰もがお前に憧れて…
皆がお前を好きだった…
そんなの最初から判ってたのに…
初めから判りきってたのに…
俺はそれが嫌だった…
俺だけのお前であってほしかった…
我が儘なのは判ってる。
無理なのも判ってる。
俺は…
お前がいれば他には何もいらなかった…
お前がいればそれで良かった…
だけどお前はそうじゃなかったって事…
ただ…それだけの事…
終わり 何となく続きます。