短編小説
こそあど「っち」
「ねぇ…こっちに来て。」
今までで一番優しい声で
今までで一番柔らかい笑顔で
君が手招きしている
「そっちに言っちゃダメっ!!」
少し不機嫌そうな声で
少しめんどくさそうな顔で
君が僕を引っ張る
あれ……?
本当の君はどっち?
前後で見比べてみても、その違いはわからない。
「ねぇ…こっちに来て。私…とっても寂しいの。」
あっちの君が泣きそうになってる。
「バカッ!そっちに言っちゃダメっ!!早く目覚ましなさいよっ!!」
後ろの君から罵声が飛ぶ。
あっちの君は、素直で…
可愛くて…僕の理想。
「こっちに来て。」
後ろの君は、いつもの君。
僕の知ってる意地っ張りな君。
「そっちに行っちゃだめっ!」
そんなに急かさないでよ。
今…行くよ。
君の方に…
本当の君の方に………
終わり