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短編小説

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『いちばん』になりたくて




「今日はどこに行ってたの?」

あなたは答えます。
「ん〜、友達んとこ。」


「今日は何をしてたの?」

あなたは少し考えて答えます。
「別に〜、ゲームしたり飯食ったり。」


「今日は何の日か知ってる?」

あなたはしれっと答えます。
「え〜、何の日だっけ?」


「今日…誕生日じゃない…自分の。」

言った後に気付く微かな香り。
「そうだっけ?別に今更祝うような年でもねぇし、何もしなくてもよくね?」


(それでも…誰かに祝ってもらったでしょう?)

(私の知らない女の人に祝ってもらったでしょう?)



「折角誕生日なのに…。」

嫌でも目に付いた腕時計。
「その気持ちだけで十分だよ。」


(それでも…誰かにプレゼントされたでしょう?)

(私の知らない女の人からプレゼントされたでしょう?)




「ねぇ…ちょっと遅くなったけど…。」
そう言うと、あなたは少し照れた様に笑った後

「別れようか?」
私の言葉に目を丸くした。



「え……?誕生日祝えなかっただけで?」

(違うに決まってるじゃない)

「そう。私『いちばん』がいいの。」
にっこり笑った私の顔。

今…どんな顔で笑ってるんだろう?


「一番って……?一番に祝いたかったって事?」

(もう……いつまでシラを切るつもりかしら?)

(そっちがその気なら…乗ってあげるわ)

「そう。私…何でも『いちばん』がいいの。」


(『いちばん』がいいわ…
   あなたの誕生日を祝うのも…
   おめでとうって言うのも…

   あなたに好かれるのも………)


「…………。」
何も言わないのは、後ろめたい事がある証拠よ。


私は座っていたソファーから、ゆっくり立ち上がる。

「………っ!?」
小さく反応したあなたを通り越して、
壁に掛かった時計に目を向けた。


(あと三分…)

隣に置いてあった荷物を拾い上げて、あなたに振り返る。


「じゃぁね。」
背中を向けて、ドアに向かう。

引き止めないのは、終わりを告げるのと一緒よ。



「そうだ……。」
ゆっくり振り返ってそう告げる。

あなたは期待した様な目を私に向ける。


(あと一分…)


「一つだけ言い忘れてた事があったわ。」

『いちばん』最後に言うわ。

「誕生日おめでとう。」

その言葉に合わせて、時計の鐘が鳴った。



日付が替わって…
あなたの誕生日が終わった……

ほらね……
この年のあなたに言った『いちばん』最後のおめでとう



最後の最後で『いちばん』になれた…


「さようなら。」
これ以上無いってくらいの笑顔で、あなたの家を後にする。



さようなら…『いちばん』大好きだった人


私はあなたの『いちばん』になりたかった……


終わり
作品名:短編小説 作家名:雄麒