小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

林没霊園

INDEX|2ページ/2ページ|

前のページ
 


「ねぇ、捨てられ霊園って知ってる?」
 それから数日後の休み時間のことだ。女子たちの噂話を僕は小耳に挟んだのだ。
 別に盗み聞きしていた訳じゃない。ただ、ついつい耳がそっちの方向に向いてしまっただけなのだと釈明しておこう。
「何それ?」
「なんでもね、その墓場に死体を捨てたら、次の日には無くなってるんだって。跡形もなく、血の一滴も残らずに」
「ああ、死体が捨てられるから捨てられ霊園なわけね」
 ただの与太話だった。死体が消えたからと言ってなんなのだ。人を殺す人間の方がよっぽど怖い。
「でね、最近隣町で人が一人消えたらしいの。家庭内暴力があったって言うから、きっと、捨てられ霊園に……私の友達のお兄ちゃんの友達が言ってたって」
 殆ど他人じゃないか、それ。
「で、その霊園なんだけど。そのほとんどが無縁仏……お参りする人がいなくなっちゃったお墓で、隣の林に飲みこまれそうな霊園なんだって」
「ふぅん。見つけたら、私どうしようかなぁ」
「やっだ。怖いことを言わないでよ」
 ……。

 午後の授業が終わったら、僕は学校を飛び出した。
 女子の話を信じたわけじゃない。しかし、大凡思い当たる節がある。有り体に言ってしまえば、嫌な予感と言う奴だ。
 多分、死体が『捨てられ』るから捨てられ霊園なのではない。人に『捨てられ』たから『捨てられ霊園』なのだ。じゃあ、噂話の正体はなんなのか?
 きっと死体遺棄に関する話だ。死体を隠すなら死体の中。管理されていない墓所があるのなら、死体遺棄にうってつけではないだろうか?
 もし、彼女が死んでいたとしたら、いつなのか。いつ死んだのか? もし死んだ日があの日より前だとしたら、僕が見たのは一体何だったのだろうか。あの子は一体なんだったんだろうか。僕が出会ったのは一体なんだったんだっ!
 気持ちだけが急く。足は縺れ、躓き、それでも走る。
 あの霊園には思ったより早く、感じたよりもずっと遅く辿り着いた。
 いつものようにここには人の気配が全くなかった。僕はそんな寂しげな霊園の奥へ奥へと進んでゆく。
 僕はそこに辿り着く。
 旧墓所を背に、新しい土が被せてある盛り土を目に止める。
 捨てられ霊園。死体を捨てたらいつの間にか消えている霊園。それはきっと、ここに捨てられた死体を埋めている者がいるからだ。この盛り土は、きっとその消えた死体の分だけ増えている筈だ。
 僕は、ゆっくりと真新しい盛り土を手で掘り起こして行く。
 確かめたくない。なのに手が動く。怖いのに、僕はひたすらに土を掘り返して行く。
 ――果たして、それは現れた。
 骨だ。あの子よりも一回りは大きく、頭蓋骨に張り付いた毛は遥かに短い男の骨だった。
 安堵した。僕は思わず息を付く。良かった、女の子の骨じゃないっ!
「見つかっちゃったのですね」
 そして、僕は再び息を飲んだ。
 そういえば、彼女たちは『誰かが消えた』という話はしていたが、『誰が消えたのか?』という話はしていなかった。
「私と、そしてこの墓所と貴方は似ている。みーんな孤独。みーんな仲間がいない。だから仲間がいない者同士で寄り添うのです」
 女の子の目は僕を捉える。
 その瞳は僕と周りの風景を溶かして赤く燃えている。
「貴方も無縁、私も無縁。みんなみーんな土になる」

 ――霊園に客人は訪れない。はてさて、それではここに訪れるのは一体何なのだろうか?
作品名:林没霊園 作家名:最中の中