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炎の華還り咲く刻

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第7話 残業
ある日の昼下がり。

何の変哲もない午後。

一本の電話が鳴り響く。



事務の女の子が慌てた感じで、佐竹に電話を取り次いだ。

昼休みが後数十分で始まるトコロだ。



「はい。…はい……わかりました。」

佐竹の応答に、周りは緊迫した空気を醸し出していた。



「はぁ……。」

電話を切った佐竹がため息を落とす。



「何かあったんですか?佐竹さん。」

芹那が佐竹に近づいて問いかける。



「あぁ…芹ちゃん。ちょっと取引先でトラブルがあってね。

 もしかしたら、企画書からやり直しかもしれないんだ。」



「え…?この間の件ですか?」

頭を抱えた佐竹が頷く。



「すみませんでした。私の企画ですよね?急いでやり直します!」

「いやっ…芹ちゃんのせいじゃないよ、先方さんがちょっと勘違いをしていたみたいで…。」



「でも……。」



今にも泣き出しそうな芹那の頭を軽く叩いて、佐竹は立ち上がる。



「とにかく俺は一旦向こうに言ってくるよ。

 悪いんだけど、芹ちゃんこっち頼めるかな?

 前年比のデータと、需要率のデータを出しといて欲しいんだけど。」



「はい。わかりました。」



もう一度『気にするな』と言って、出て行った佐竹の背中を見送った。







「あ…どうしよう…急がなきゃ……。」

パタパタと駆け出した芹那を、遠目に見ていた優が立ち上がる。





「セリ先輩。」

資料室の中で何冊かのファイルを見ていた芹那に、優が声をかける。



「僕も手伝います。」

「でも……。」



芹那の言葉を遮って、優はファイルを手にする。



「……ありがとう……。」

小さく呟いた芹那に、優も同じ大きさの声で『いいえ』と笑った。





それから一時間後。

昼休憩が終わる直前。

ファイルを纏めていた芹那と優の元に、

笑顔の佐竹が戻ってくる。



「いや〜良かった。今日中には何とかなりそうだよ。」

佐竹の言葉を聞いて、芹那は心底ホッとした。



「何だ?二人とも昼食べずにやってくれたのか?

 ここはいいから、休憩してくるといいよ。」



芹那からファイルを受け取って、佐竹が言う。



「でも……。」

立ち止まった芹那の言葉を遮って、佐竹が笑っていた。



「今の内に休憩取っといて。

 もしかしたら残業になっちゃうかもしれないけど……二人とも大丈夫?」



「「平気です。」」

二人の重なった声に、佐竹は更に笑みを漏らして…

「じゃぁ尚更体力は必要だ。ほら、休憩取ってきて。」



半ば無理やりな感じで

芹那と優はちょっと遅めの昼休憩を取った。









「やっと終わった〜。」

伸びをしながら芹那の言葉。



案の定今日は残業で、

更に思っていたより時間がかかってしまい、今は21:30。



「何とか終わってよかったです。」

芹那の隣の机から、優の声がする。





「藤原君…先に帰ってくれても良かったのに…。」

「いいえ。乗りかかった船なんで。

 それに家に帰っても一人だし、何もする事もないんで。」

笑いながら言う優。



「一人暮らしなんだ?」

「ええ。」



「すごいね。私まだ実家だから、尊敬するよ。」

「あはは。そんないいもんじゃないっスよ。

 飯も全部自分でやんなきゃいけないし、掃除なんてほとんど出来てません。」



二人で笑いながら、ファイルの山を片付けていく。







「おぅ。二人ともお疲れさん。ホントにありがとな。」

後ろから佐竹が、二人の肩を叩く。



「「お疲れ様です。」」

芹那と優は声を揃えて言った。



「本当にご苦労さん。今日はもう上がっていいよ。後はやっておくから。」

そう言った佐竹の言葉に甘えて、二人は帰り支度をした。



事務所の鍵を佐竹に預けて、二人は部屋を出て行く。



「お疲れ様でした。」

ヒラヒラと手を振る佐竹にお辞儀をして、事務所を出た。







「セリ先輩、車ですか?」

ロビーに着いて、優が芹那に問いかける。



「うぅん。バスなの。私免許持ってないから。」

えへへと笑う芹那に、優が思い付く。



「じゃぁ送って行きますよ。高級車とかじゃなくて、バイクですけど。」

おどけた感じで笑う優に、芹那の顔が曇る。



「セリ先輩?」

その顔を見た優も、不安げな声を上げた。



「うぅん、ごめん。タクシーで帰るから大丈夫。」

「あ……。」



口ごもる優をよそに、芹那はロビーを出て行った。



「また明日ね〜。お疲れ様〜。」

通りまで駆け出していた芹那の顔は、いつも通りだった。





何だか腑に落ちない優は、暫く会社のロビーに立ち尽くすしかなかった。



続く→

作品名:炎の華還り咲く刻 作家名:雄麒