炎の華還り咲く刻
第4話 社長令嬢
「おはようございます。」
貴幸と別れた芹那は、重い気持ちのまま会社の扉を開けた。
「おはよう、芹ちゃん。」
芹那の前から、恰幅のよい男が声をかける。
佐竹は芹那の上司で、芹那の父親とも仲が良く
この会社に入った芹那を何かと面倒を見てくれる人だ。
「おはようございます、佐竹さん。」
芹那はペコリとお辞儀をして、自分の席に向かう。
「芹ちゃん、ちょっといいかな?」
佐竹に呼ばれて、芹那は荷物を降ろし、佐竹の元へ行く。
「何ですか?」
「今日から入ってくる子がいるんだけどさ、
その子の教育、芹ちゃんに任せてもいいかな?」
「私にですか?」
驚いた芹那の後ろで、ドアが勢いよく開く。
「おはようございま〜す!」
大声で挨拶をしたのは、優だ。
「おぉ、藤原君。丁度よかった、こっちに。」
佐竹が優に手招きをする。
「おはようございます。」
優はにこやかに笑って、二人の前に立った。
「早速だが、今日から君の教育をしてくれる外波山芹那君だ。
しっかり教わるように。」
佐竹が芹那の肩を叩き、一歩前に押し出す。
「ちょっ……佐竹さん!私っまだ無理ですっ!」
芹那は佐竹を振り返って、両手を前で振る。
「何言ってるんだ、芹ちゃん。もう四年目だろう?
それに仕事だって完璧だ。さすが外波山さんとこのお嬢さんだね。
ということで、彼の事は任せたよ。よろしくね。」
ワハハと大口で笑って、佐竹は部屋を出て行ってしまった。
「あの…今日からお世話になる、藤原優です。よろしくお願いします。」
呆然と立ち尽くす芹那に、優は遠慮がちに声をかける。
「あっ…こちらこそ…えっと……外波山芹那です。よろしく。」
オドオドしながら、芹那も自己紹介をした。
「あの…もしかして外波山コーポレーションの…?」
優は更に遠慮がちに問いかける。
「えぇ…父の会社なの。」
「そうなんですか!?俺もあそこ入りたかったんですけど、試験に落ちちゃいまして。」
ニヘラっと笑った優。
「そうなんだ。でもここも父の会社の下請けだから、
頑張れば、本社勤務も夢じゃないよ。」
「はいっ!精一杯頑張ります!!」
外波山コーポレーション。
日本全国にいくつもの支社を持つ大手企業。
日用品や食品などの販売開発に取り組んでいる。
本社には数千人の社員がいて、どの人も有名大学を出たエリートばかり。
しかし芹那の言った通り、大学すら出ていないような人でも
仕事を評価され、本社に勤務している人がいるのも事実。
先刻会った貴幸も本社に勤務している内の一人だ。
芹那も本社勤務を薦められたが、
親元を離れて働きたいという、芹那の意思を尊重して
子会社である今の会社に就職した。
「セリ先輩?」
ボーっとする芹那の顔を覗き込んで優が問いかける。
「え…?あ……。」
「あっ!セリ先輩でいいですか?呼び方。
外波山先輩だと、なんか固っ苦しくないですか?」
ニコニコとした優に、芹那もつられて『いいよ。』と笑った。
「じゃぁ、藤原君。今日は仕事の説明と、簡単なことから始めましょう。」
「はいっ!よろしくお願いします!!」
続く→