白い日記帳
第14話 背中のぬくもり
8月14日
今日は花火大会。
今年はみっちゃんと二人で行くことになった。
ちょっとデートみたい。
楽しんできまぁ〜す。
花火大会当日。18時丁度。
私は自分の家の前で、みっちゃんを待っていた。
一緒に行くことになって、みっちゃんが言ったのは
『今年は浴衣じゃなくて、普段着で行こうか?』だった。
だから私は今、普通の服を着て立っている。
本当は浴衣を着て、おめかししたかったけど……。
せめてもの悪あがきで、目いっぱいお洒落をした。
初めてメイクもしてみた。
みっちゃん…気付いてくれるかな?
「おう。芹那、お待たせ。」
みっちゃんの家の方から、みっちゃんの声がする。
振り返った私は、みっちゃんの姿を見て思わず固まってしまった。
「みっちゃん…それ?」
ゆっくり私の方に歩いて来るみっちゃんが
少し重たそうに引いていたバイク。
「カッコ良いだろ?俺の愛車。」
みっちゃんはニカッと歯を見せて笑って
ブラックの車体を軽く叩いた。
「今日それで行くの?」
「そう。」
そこで私はやっと気付く。
浴衣じゃいけなかった意味に。
スカートにしなくて良かった。
心の底からそう思った。
「芹那。」
名前を呼ばれて渡されたヘルメット。
私は素直にそれをかぶって、
バイクに跨っているみっちゃんの後ろに乗った。
「安全運転でお願いしまぁ〜す。」
「まかせとけ。」
二人で笑って、ゆっくりバイクが発進した。
花火会場に着いて、人ごみの中を歩く。
「みっちゃん、待って。」
あまりの人の多さに、前を歩くみっちゃんを見失いそうになって焦る。
「ん。」
ぶっきら棒にそう言ったみっちゃんが
私に向かって左手を伸ばした。
「繋いでていいよ。」
ふいっと目線を逸らしたみっちゃんに、私は嬉しくなってその手を掴んだ。
「芹那はとろいからな。逸れない様にな。」
ちょっと力を入れたみっちゃんの左手。
「ひどーい、そんなにとろくないもん。」
「どうだか。」
笑って歩き出したみっちゃんに、私も足を進めた。
「ずっと…離さないでね……。」
小声で呟いた私の言葉は、
周りのざわめきに掻き消されて……
「何か言ったか?」
みっちゃんの耳には届かなかったみたい……
でも……いいよ……今がとっても幸せだから……
花火のクライマックスも終わって
周りの人達が忙しなく帰り支度を始める中
私達も帰ろうか、と駐輪場へ向かった。
「すごく綺麗だったね。」
私の言葉にみっちゃんも嬉しそうに『そうだな』と返す。
他愛のない会話をしながら、バイクまでの道のり。
ものすごく短く感じた。
「芹那、これ。」
バイクに着いて、みっちゃんは自分の上着を脱いで、渡してくれた。
不思議そうな顔でそれを受け取ると
「夜はバイクそれなりに寒いから……。」
少し照れているのか、みっちゃんはすぐにバイクに跨ってエンジンをかけた。
どうしよう……泣きそう………
「芹那?」
みっちゃんが私を振り返るから、私は慌てて後ろに乗った。
あぁ……どうしよう……
嬉しすぎて……涙が出そう……
ねぇ……どうしよう……
幸せすぎて……死んじゃうかもしれない……
相変わらずゆっくり進むバイク。
みっちゃんの背中は、やっぱり広くて……
暖かかった………
私はみっちゃんの腰に回した腕に力を込める。
「みっちゃん………大好き……。」
私の言葉は、運転しているみっちゃんには届かない。
ずっと言えなかった言葉は……
走りすぎる風に乗って…後方で弾けた………
「芹那?」
「何でもないよ。」
今度は大き目の声で、そう言った。
そう……届かなくていい……
まだ……このままで……
続く→