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白い日記帳

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第11話 女の子の想い


「外波山芹那ってあんた?」
廊下ですれ違った綺麗な女の人。
校章の色で、上級生だと気付く。

「はい、そうですけど。」
私はビクビクしながら返事を返した。

「ちょっと付き合ってよ。」

そう言われて連れてこられたのは
階段の奥にある非常口の前。

普段人が通ることのないその場所は
心なしか薄暗く見えた。

それに咥えて私の恐怖を更に増すのは
目の前の上級生達。
数にして5・6人?
私を睨むようにして立っていた。

「あの……何ですか?」
私は更に声を震わせて尋ねた。


「あんたさ……。」
その中の一人が口を開く。

「細川君の何なの?」

そう聞かれて、私の頭には一瞬ハテナマークが飛び交う。

細川君……?あぁ…幸ちゃんの事か。

「えっと……幼馴染です。」
私がそう言うと、彼女達は口々に小声で話し始めた。

「幼馴染にしては、ちょっと度が過ぎてない?」
先程と同じ人が、問いかける。

「え?」
言われて考えても、思い当たる節なんて見当たらなかった。


確かにたまに、幸ちゃんのお母さんに頼まれた
お弁当渡しに行ったりしてたけど…

それすらも気に入らないって事…?
それだったら……
みっちゃんのクラスの方が頻繁に行ってるのに…


「黙ってないで何とか言いなさいよ。」
黙り込んで考えてる私の肩を小突く。


「あの……私…ちゃんと好きな人いるんで…
 ゆきちゃ…細川先輩とはそんなんじゃないです。」

ちゃんと目を見て私は言い切った。


「そうなんだ……。」
彼女達は安心したのか、
一瞬表情が柔らかくなる。

そっか……皆…本気で幸ちゃんの事好きなんだ…

彼女達の気持ちが、私にも十分伝わって
少しだけ親近感が湧いた。


「それなら…金輪際細川君には近づかないでよね?」
その言葉に、私は驚いて顔を上げる。

「それは約束出来ません。
 恋愛感情は無いにしても、幸ちゃんは大切な人なんで。」

私の言葉に呆気に取られたような顔。

「ちょっと!後輩のくせに生意気なんじゃない?」

突き飛ばされて、大きな音の後に鈍い痛みが走った。
しりもちを着いた私の肘から血が滲み出ていた。

「痛い……。」
泣きそうになるのを何とか堪えて、上を見ようとした直後
階段の上の方から声が聞こえた。

「何やってんだよ!!お前らっ!!」
私の前に立ったのは、みっちゃんだった。

「みっちゃん!!」
今にも殴りかかりそうな勢いのみっちゃんの腕を
私は必死に押さえた。

「みっちゃん!!やめてっ!!私は大丈夫だからっ!」
叫ぶ私を振り返ったみっちゃんは、泣きそうな顔をしていた。


「皆さんが幸ちゃんを好きな気持ち、すごく判ります。
 でも…こんなの変ですよね?
 幸ちゃんを好きなら、もっと幸ちゃんの傍にいるべきだと思います。
 少しでも幸ちゃんの事知って
 少しでも幸ちゃんに知ってもらって
 それから始まると思います。」

私は臆することなく言い放った。


もう…怖くない
もう…痛くない

だって…みっちゃんが来てくれたから


「ご…ごめんなさい。」
彼女達は涙目で謝ってくれた。

「いいえ、成就するように願ってます。頑張って下さい。」
私は笑顔で返事をした。



それから彼女達を見送って、みっちゃんと二人。

「痛くないか?」
「大丈夫。」

みっちゃんが何も言わず、私の腕に触れる。

「痛っ!」
「痛いんじゃねーか。ったく、こっち来い。」

みっちゃんの腕に引かれて、近くの水道に向かった。

傷口をそっと洗ってくれて……

嬉しくて……優しくて……泣きそうだった……

「みっちゃん……ありがと……。」

そう言うと、みっちゃんは顔を上げずに
短く『ん。』と返事をした。


「ねぇ…みっちゃん。この事幸ちゃんには秘密にしとこうね?」
私の提案に驚いて顔を上げたみっちゃんの眉間には皺が寄っていた。

それでも私は笑顔を崩さず、みっちゃんを見つめる。



「はぁ……芹那がそれでいいなら……。」
ため息を付きながら、みっちゃんも諦め顔。


だって……私も判るから……

恋をしたら…
右も左も見えなくなっちゃうんだよ?

恐怖も……
痛みも……

そして…罪悪感でさえも…

何もかも見えなくなっちゃう……

その人しか見えなくなっちゃうんだから……


続く→
作品名:白い日記帳 作家名:雄麒