壇上のNovelist 2ndシーズン
第27話 憧れの君(雫)
ようちゃんに言われた事を意識して
なるべく瀬崎君と二人きりにならないように気を付ける。
……といっても、何故か最近、実希や本ちゃんが
ちょっかいかけてくるので、一人でいる事が少なく感じる。
「戸谷先輩。」
休憩中に背後からした声に振り返ると、瀬崎君が立っていた。
本ちゃんは買出し中。
実希はさっき団長とホールを出て行った。
「え……っ。あ……。」
少しおどおどして、辺りを見回す。
広いホールに何人もいたので、二人きりではないから『いいか』と思った。
「戸谷先輩、俺の事避けてません?」
単刀直入に聞いてくるので、どう返していいのか困る。
「え……その……。」
「くすくす(笑)まぁ……俺の態度があからさまだから、しょうがないですけど……。」
「???」
苦笑いをする瀬崎君。
「だけど………しょうがないんです。
戸谷先輩は俺にとって憧れの人でしたから……。」
「えっ?」
いつの間にか隣に座っていた瀬崎君と、発せられた言葉に驚く。
「去年の今頃…初めて舞台で戸谷先輩を見たんです。
すっげぇちょい役なのに…その役にぴったりはまってて……
何より…こんなに楽しそうに演じてる人がいるんだ………って。」
(ようちゃんが、書いた時のやつだ。)
あたしにとって…初めての舞台で……
自分が楽しむだけで…精一杯だと思ってた……
ちゃんと楽しんでくれてる人がいたんだ……
嬉しくなって、顔が緩む。
「えへへ〜/////」
私に合わせて、瀬崎君も笑う。
「あの時から…俺…先輩の事好きでした。」
「そうなの?そう言ってくれると、頑張った甲斐があるよvv」
そう言うと、瀬崎君はまた苦笑いをして……
「好き……の意味がちょっと違うんですけど……」
ふわっと手を重ねられて、無意識に体が逃げる。
「せ……瀬崎……君?」
ぎゅっと掴まれて、これ以上動けない。
「はぁ〜い、は〜い。烏龍茶お待たせしましたぁ!!」
真後ろから本ちゃんの声がして、さり気なく掴まれた手に烏龍茶の缶を渡された。
「これ、雫ちゃんの分やで?」
「あっありがとう。」
「せやっ、あっちにアイスあったで?食いに行こうや?」
「アイスvv行くっvvv」
本ちゃんに連れられて、その場を離れる。
「実希ちゃんはどこに行ってん?」
アイスを渡しながら、本ちゃんが聞いてくる。
「団長に呼ばれて、出てっちゃったよ。」
受け取ったアイスを口に入れると、口の中に甘味が広がる。
「ん〜vvおいしっvvv」
「さよか〜、よかったなぁ〜。」
「あっ、せや……。雫ちゃん。」
「ん?」
「瀬崎……気ぃ付けや?」
真剣な顔で言ってくるから、さっきの事が脳裏に広がる。
「う……うん。」
瞳の中に恐怖の色が見えたのか、本ちゃんが焦る。
「そう言えば、実希ちゃん遅ぃなぁ〜。アイス無くなるで。」
明るい声で話題を変えてくれて……
「だめっ。これは実希の分!!」
私も無理に笑顔を作る。
(それにしても……ホントに遅いなぁ。何かあったのかな?)
ちらっとホールのドアを見る。
「あっ。実希〜。」
丁度扉が開いて、実希が入ってくるのが見えた。
「こっち、こっち〜。」
私に気付いて、実希は深刻な顔で、私と本ちゃんの間に座った。
「実希?」
「どないしてん?」
実希はじっと押し黙ったまま、下を向いている。
「私……来週から、一年間……新潟の劇団に行ってくる。」
「「えっ!?」」
いきなりの衝撃告白に、私と本ちゃんは言葉を失う。
「何か……向こうの劇団で、音響と役者が足りないらしくて……
そっちの手伝いに行ってくれないかって…………。」
そう笑う実希の顔は今にも泣き出しそう。
「…………。」
「…………。」
押し黙ってしまう私と、実希。
「で………でも一年だけやろ?すぐやん、すぐっ。
それに……遠征抜擢やなんて、すごぃやんか?」
明るい声で、何とか盛り上げてくれる本ちゃん。
「そ……そうだよ。すごいよ。実希っ。
だって……実希、音響の仕事完璧だもんっ。
一年間淋しいけど……。
役者も足りてないって事は、実希の初の役者デビューだよ!!」
嬉しい事なのに、目に涙が溜まる。
「雫ぅ〜。」
実希の目にも涙が溜まっている。
「大丈夫っ!実希なら出来るよっ。
場所は違うけど、お互い成長しなきゃっ!!」
「うんっ。そうだよねっ!私…頑張るっ!!雫も頑張るんだよっ!!」
「もちろんっ!!」
門出に涙は似合わないから………
二人で必死に涙を堪えた………
一年経って……戻ってきた時に……
同じ舞台に立とう…………
そう約束した…………
続く→
作品名:壇上のNovelist 2ndシーズン 作家名:雄麒