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壇上のNovelist 2ndシーズン

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番外編 運命のスポットライト【前編】(瀬)
『壇上のNovelist』の番外編。


今回の主人公は25話〜35話に登場した
【瀬崎 連】の番外編のお話です。

この話で、瀬崎君は23歳になってます。
あれから三年後の話になります。








あれから当分恋をするのをやめようと決めた。

あの人に未練が無いといえば…嘘になる。

その証拠に『恋』はおろか、他人との付き合いも少なくなっていた。

正確に言えば、他の誰かを深く想うのが怖いのだと思う。


自分の心の奥にある『独占欲』

自分の私欲の為に、あの人を傷付けた……



今にして思えば、あの時本山先輩が止めに入ってくれたのが、せめてもの救いだったと思える。


  もしあのまま…本能に任せて………

そう思うと背筋がゾッとする。

それこそ取り返しの付かない事になってた。



それでも……あの時は、あれでいいと思ってた。

他人の物になるくらいなら、いっそ壊れてしまえばいいとさえ思った。

そう思っていた自分は、子供だったんだ。



その後……逃げるようにして編入した。
1から勉強をし直して……
やっと入った劇団……。

本当は卒業したら、向こうに戻ろうかとも考えた。

だけど…そんな勇気は無かった。

きっと俺はこんな風に、一生逃げ続けるんだ……

  自分の犯した罪から……… 

  そして………あなたから………




「瀬崎ぃ〜。そういやぁ聞いたか?」
劇団の先輩の声で、我に返る。

「何をですか?」

「今度倉持(くらもち)さんが、戻ってくるんだってよ。」
「倉持さん?」
初めて聞く名前に、眉間に皺が寄る。

「あれ?そうか、お前まだここ1・2年だっけ?」
「もう時期半年ですかね?」

「そっか、そっか。二年位前に怪我で入院してた人が
 今度戻ってくるんだと。」

「そうなんですか……。」
「お前〜相変わらずだなぁ。その人すっげぇ美人だから
 さすがのお前もビックリだぜ?」
「はぁ………?」


その時はさして興味も沸かず………
その人がどんな人であろうと、自分の仕事さえ出来ればそれでいいと思ってた。




数日後の練習日……。
「じゃぁ新入り、正面スポットに回ってくれ。」
団長に言われて、舞台裏から2階に上がる。

定位置に付いて、指示を待つ。

(こうして見ると、結構広いな…)

この位置から見下ろすと、壇上も客席も全てが見渡せる。

壇上で役者達が、慌しく動いているのをボーッと見つめる。

それを見ていると、不意に懐かしさが込み上げてくる。


(何だろう………)

心が高揚して………
涙が溢れそうな感覚……

  あぁ……そうか……

ずっと昔の感覚………

自分がまだ舞台裏を知らない頃……

純粋に劇を見ていた頃………



「瀬崎ぃぃぃ〜!」
「あ…っ、はいっ!!」
はっとして、壇上に目を向ける。

(あの人が……倉持さん?)
見たことの無い女の人が、舞台の中心に立っていた。


「とりあえず、中盤の回想シーン通してみるから
 合図があったら、センターにピンスポな。
 その後もう一度合図するから、徐々に絞っていって、最後暗転してくれ。」

細かい指示を受けて、返事をする。



会場がゆっくり暗くなっていく。

  まただ……またさっきの……高揚感……


「くすくす……。」
真っ暗な中で、女の人の笑い声。

合図が合って、中心にライトを寄せる。


ライトの下にいた人を見て驚いてしまう。

「……戸……谷先………輩……?」

「バカね………過去はどうにもならないのよ。
    戻ってやり直せるなら、私はあなたと行くわ。」

放たれた台詞に大きく頭を振って、もう一度ライトの下を見る。

「倉持さん?」

そこには練習だというのに、本番さながらに演じる倉持さんの姿。


  そうだよ………。

  戸谷先輩がこんな所に、いるはずないじゃないか……

  昔を思い出して……

  錯覚を起こしたんだ………


自分自身を笑って、もう一度舞台を見る。
視界がぼやけて、自分が泣いている事に気付く。


「…………おい!瀬崎っ!!」
団長の合図に気づかずに、そのまま泣き崩れてしまった。




その後……こっぴどく叱られて、肩を落す。

「瀬崎君。」
荷物を片付けていると、後ろから声をかけられて振り向く。

「倉持さん……。」

「初めまして…かしら?」
そうにっこり笑った顔。


(何だ……全然似てないじゃないか……)

少しホッとする。


「あっ。すいませんでした。倉持さん……久しぶりの舞台なのに……。」
慌てて頭を下げる。

「いいえ〜。練習で良かったわ。
 本番だったら、ただじゃ置かないから(笑)」
冗談ぽく笑った顔が、幼く見える。

「本当にすみませんでした。」

もう一度頭を下げた俺に…
「舞台は好き?」
突然そう聞かれた。

「えっ?」
驚いて顔を上げると、さっきよりも笑顔の倉持さんがいた。


「私は大好き。見てくれるお客さんの楽しそうな顔……
 それにやっぱり演じてる自分が楽しいの。

だから…瀬崎君もあまり気を張らずに、楽しむことから始めればいいと思う。」

「倉持さん……。」

「うふふ。とりあえず私の事は名前で呼んで頂戴?
 そっちの方が仲良くなれる気がするでしょ?」

そう笑う倉持さんを見て、何かを思い出した。

「これからもよろしくね。」
差し出された手を見て、体が震える。

「瀬崎君っ!?」
遠くに聞こえる倉持さんの声に、耳を塞いでホールを飛び出した。


  そうか………

  似ていたのは…顔じゃなくて……

  舞台に立つ姿…………

  堂々と演じる姿………

  楽しそうで………

  輝いている姿…………


【後編】に続く→
作品名:壇上のNovelist 2ndシーズン 作家名:雄麒