壇上のNovelist 2ndシーズン
番外編 運命のスポットライト【後編】(瀬)
翌日から避ける様に日々を過ごす。
もともとメイン役者の倉持さんと、照明下っ端の俺との接点は無く
特に会話をしなくても、公演の準備は進んでいった。
「瀬崎っ!!何度言ったらわかるんだ!! 気ぃ抜きすぎだぞっ!!
来週には本番なんだから、やる気が無いなら辞めちまえっ!!!」
団長に浴びせられる罵声が、ここ最近増えてきた。
身体が……ものすごく重くて………
自分の腕じゃないみたいな感覚………
「すみません……。」
「午後までに頭冷やして来いっ!!」
そう言われて、ホールを追い出されてしまった。
その足で、屋上へ向かう。
青い空が広がって、太陽が目に突き刺さる。
覚えたてのメンソールが、口の中で広がって……
真っ青な空に消えていった。
背後の屋上のドアが開いて、目を向ける。
「倉持さ…ん。」
ゆっくり近づいてくる姿から目を逸らす。
倉持さんは隣に座ったまま、何も言わない。
「私は……誰かに似てる?」
急にそう問われて、びっくりする。
「えっ?」
驚いて顔を上げると、少し悲しそうに笑った。
「瀬崎君の……嫌いな人に……似てる?」
真っ直ぐ見つめてくる瞳。
心の中を全て見透かされそうなほど、綺麗で純粋な瞳。
「はは……。」
俺は少し笑って、下を向く。
「逆です……好きな人…いえ…好きだった人に似てるんです。
すみません……倉持さんは何も悪くないのに………。」
「喧嘩別れ?」
その問いに首を横に振った。
「俺が…悪いんです……。
一方的に俺の想いをぶつけて……あの人を傷付けた……。」
顔を隠すように、頭を覆う。
「きっと………俺は………許されたいんだ……あの人に………。」
目頭が熱くなってくるのに気づく。
「……っく………。」
声を殺して泣いた。
フワッと頭を撫でられて、余計に涙が溢れた。
「バカね………過去はどうにもならないのよ。」
壇上での台詞……
顔を上げて倉持さんを見る。
「あなたは十分苦しんだはずよ…。」
倉持さんの綺麗な指が、俺の両頬を包む。
許してもらえる訳が無い………
あの人を傷付けた事………
何も言わずに…逃げてきた事………
「戸…谷先輩にも………西条……さんにも……
合わせる顔は………ありません………。」
倉持さんの手を、ゆっくり押し返してうつむく。
「今までどれだけ自分を責めたの?
どれだけ声を殺して泣いたの?
もう十分でしょう?もう許してあげて……?」
倉持さんの言っている意味がわからなくて、目を開ける。
「あなたの大切な人に許してもらえるかは、わからない……
けど………あなた自身は許してあげて………。」
目を見開いた俺を、優しく抱きしめてくれる。
途端に涙が溢れ出した。
「バカね……もう十分すぎるほど………あなたは頑張ったわ………。」
その言葉に、少しだけ心が軽くなる……
あぁ……ずっと……待ってたのかもしれない……
誰かが……そう……言ってくれるのを……………
「……っ……うっ……うわぁぁぁぁっ。」
抱きしめてくれた倉持さんの腕の中で、俺は声を上げて泣いた。
今まで……ずっと……我慢していた………
あの人の方が……もっと……傷ついたはずだから………
俺が泣いていい訳……無かった………
そう……思っていた…………
だけど…………
今日だけは…………
せめて………今日だけでいいから…………
大声で……泣かせて下さい…………………………
終わり
作品名:壇上のNovelist 2ndシーズン 作家名:雄麒