壇上のNovelist 2ndシーズン
第43話 最初の夜 最後の気持ち
「はぁ……。」
「はぁ……。」
家で遥の帰りを待つ雫。
帰りの道中の遥。
共にため息を溢す。
ゆっくりと玄関の扉が開く。
「お…お帰り……。」
「お…おぅ。ただいま…。」
何故かお互いしどろもどろ。
「…………。」
「…………。」
黙り込んで、お互いの位置を確認しつつ、様子を伺う。
(何や?雫もちょぉ…おかしないか?)
いつもは帰ってくれば、あれがどうとか…
今日は何があった…だと話が尽きないのに。
不思議に思いながらも、遥は何も聞けずにいた。
「ようちゃん?」
「ん?」
平静を装って返事をするが、内心ドキドキしている遥。
反対に思い切って声を掛けたはいいが、その先を考えていなくて焦る雫。
(どうしよう?)
「雫?」
黙り込んだ雫を覗き込む。
「あ……あのねっ!ようちゃんは我慢してるの?」
「へっ!?」
効いた雫も、言われた遥も、驚いて顔を見合わせる。
「な…何をや?」
「えっ/////」
雫の反応を見て、嬉しい反面複雑な気持ち。
「いきなりどうしてん?」
そう聞いた後に、金折に聞いたな。と理解するが
発した言葉は戻らない。
「や……やっぱ、何でもないっ/////!!」
顔を真っ赤にして、雫は寝室に駆け込んでいった。
(うきゃぁぁぁ/////恥ずかしいぃぃぃ/////)
熱の引かない顔を覆ってジタバタ。
(いきなり……変に思ったかな?
それとも……やっぱり…そんなつもりない?)
涙が出そうになって、ベッドに倒れこむ。
(あ……ようちゃんの煙草の匂い……)
煙草が苦手だったのに…
今では慣れた……
大好きな人の残り香……
「雫……。」
遥は閉まった寝室の扉を見つめる。
(雫も意識しとるっちゅー事やろな)
焦る気持ちを落ち着かせる為に、煙草に火を点けた。
(これが良くも悪くも…第一歩やろな…)
徐々に灰となっていく煙草を揉み消して、
寝室の扉に手をかける。
「雫?」
ベッドの上でうつぶせになっていた雫の体が少し揺れた。
遥が近づいても動く気配はない。
遥はそのままベッドに腰掛けて、そっと頭を撫でてやる。
力の入っていた雫の体から、緊張感が抜ける。
「あんま無理せんでもえぇよ。あっちはあっちで俺らは俺らやろ?」
「でもっ!!」
勢い良く体を起こした雫が、潤んだ瞳で遥を見つめる。
「ようちゃんは………どうなの?
あたし…そんなに魅力ない?」
遥を見つめる瞳が、不安に揺れている。
「アホか…。これでも俺は大人やねんで?
ちゃんと雫の気持ちわかっとるつもりや。
そりゃぁ…俺かてたまに切なくなったりするんよ?
雫が気付かずに、色気振りまいたりしとる時とか。」
冗談交じりに言う。
「じゃぁ……。」
「そんなに焦らんくてもえぇ。
人に言われてするような事ちゃうからな。」
「う……うん。」
下を向いた雫の頬を両手で掴んで、くしゃくしゃっと撫で回す。
「わっ、わっ!?ようちゃん?」
「よっしゃっ、腹減ったなぁ。飯でも食うか?」
そう言って立ち上がった遥の後を追って、雫も立ち上がる。
少し遅めの昼食をして、その後も個々の時間を過ごした。
遥は仕事をしようと、パソコンに向かうが
先ほどから一行も進まない。
「はぁ。」
盛大にため息をつく。
一方。隣のリビングでも……
「はぁ。」
負けじとため息を漏らす雫の姿。
テーブルにうつ伏せながら、携帯と睨めっこ。
昼食を食べてから二時間ずっとこの体制のままだ。
〜〜〜♪
「もしもしっっ!」
待ちに待っていた着信メロディに、素早く反応して電話に出る。
『雫?大丈夫?』
「実希ぃ〜(泣)」
『何?何かあったの?』
「ようちゃんに、我慢してるの?って聞いちゃった。」
『えっ?直球?』
「うん……。」
『………そっか…それで、何だって?』
「焦らなくていいよって……。」
『そっか……。さすが西条さん。
だったら雫も言われた通りにすればいいよ。』
「でも………。」
少し躊躇って口ごもる。
「でも……ようちゃんが……。」
『雫。』
「え?」
『私から話振っといて今更だけど…
その時まで待ってればいいと思う。
西条さんはそのつもりみたいだし……。
それに……
雫がそうやって考えてるって事は
ちゃんとわかってる証拠だよ。
よぉく考えてみて……自分の気持ち…。』
「うん……。わかった。ありがとう。考えてみる。」
その後少し話をして、電話を切った。
実希に言われた通り、頭を整理する雫。
考えても…考えても………
まとまらなくて……
頭が破裂しそうになる。
そのまま晩御飯の支度をしたもんだから
相変わらずの失敗。
それでも笑いながら、食べてくれる遥を見て
雫の胸がギュウッとなる。
(何だろう?何か…ぬいぐるみでもいいからぎゅぅってしたい)
何故か物足りなくて、腕がフワフワする。
全ての家事を終わらせて、雫はベッドに入る。
遥は仕事が残っているようで、まだパソコンの前。
何だか眠れなくて、雫は寝返りを打つ。
ただでさえ広いベッドが、余計に広く感じるのは気のせいだろうか?
本日五度目の寝返りを打つのと同時に、開いた寝室のドア。
「雫?まだ起きてるん?」
遥は暗闇に目を細めながら、ゆっくりと近づく。
「う………うん。」
「眠れないんか?」
雫の隣に寝転んで、遥は頭を撫でる。
雫の鼻が小さく反応して、遥を見上げた。
「ようちゃん、煙草吸った?」
「ん?臭うか?そういえば、寝る前に吸ぅたゎ。」
シャツをパタつかせながら、雫から離れようとする。
「いいのっ。」
それを制するように、遥に抱きついた。
「ようちゃんの……匂い……。」
遥の胸に頬を擦り付ける。
「なぁ……キス……しても……えぇか?」
遥が小さく呟く。
どんな時よりも、穏やかな笑顔で……
誰よりも、優しい声で……
雫は返事の代わりに、少し上を向いて目を閉じた。
いつもよりも軽い口付け……
それが余計に雫の心を締め付ける。
「………だ……やだ……。
……もっと……ぎゅってしたいの……
もっと…………いっぱい……。」
大きい雫の瞳は、真っ直ぐに遥を見つめる。
「あかんて……これ以上は……
俺かて…いっぱいいっぱいや……。」
「だって…胸がぎゅぅぅぅってするの……
もっと……って……。」
「せやかて……。」
「駄目?」
潤んだ瞳に、遥の理性は吹っ飛ぶ寸前。
「無理してへん?俺のためとか?」
目線の位置を雫に合わせて、遥が問いかける。
「してない。あたしが思ったの……。
本当は今までも思ってたのかも……
気付かないだけで……。」
それを聞いた遥が、くしゃっと笑って目を細める。
「そうかもしれへんな。」
ゆっくりともう一度唇を重ねる。
今度は……深く………
「……ふっ……ふぁっ……。」
何度も角度を変えて……
深くとろける様な……大人のキス……
息も出来ないほど……
酸欠で朦朧とする頭で、
雫は必死で遥に腕を伸ばす。
「ようちゃん……大好き…。」
作品名:壇上のNovelist 2ndシーズン 作家名:雄麒