壇上のNovelist 2ndシーズン
第40.5話 上陸(実)
やっとこっちでの生活も慣れてきて…
来たばかりの頃よりは、落ち着いて生活が出来る。
それでもやっぱり淋しいものは淋しくて…。
『いつでも電話して。』と雫は言ってくれるけど…
そう毎日毎日、邪魔しちゃ悪いでしょ…?
「はぁ。」
広い部屋にため息がこぼれる。
(本ちゃん…会いたいよぅ…)
枕を抱き締めて、目を閉じる。
〜〜〜♪
頭上からした着信音に、勢い良く飛び起きる。
そう…本ちゃんからの着信音。
「もしもしっ!」
『もしもし。』
耳もとに大好きな声。
最初はなぁなぁな感じで付き合うことになっちゃったけど
今では一番大好きな人。
「久しぶりだね?どうしたの?」
『あんな…今…駅におんねんけど…。』
「駅?今日もバイト?」
時計を見ると、夜十一時過ぎ。
『いや……その……。』
電話越しにモゴモゴと言いにくそうな本ちゃんの声。
「本ちゃん?」
『あ〜っと、今な……。』
「???」
『実希ちゃん家の傍の駅……。』
本ちゃんの言葉に耳を疑って聞きなおす。
「え?どこにいるって?」
『その…な…。会いに……来てん…実希ちゃんに……。』
「う…嘘……?」
『ホンマやって。……行ってもええ?』
「本当……に?だって……えっ……?」
気が動転して、頭の中がパニック状態。
『って言ぅても、もう歩き始めてもうたゎ。
住所見てもよぅわからへんけど……。』
「今どこ?!」
『あ〜何や、右の方に大っきいグラウンドが見える。野球場みたいや。』
「その先にコンビニ見える?」
『コンビニ?おぉ〜あるよ。』
返事を聞く前に、家を飛び出してた。
走るのに必死で、会話がうまく出来なくて……
受話器の向こうから『危ないから、待ってて』って…本ちゃんの声。
駄目……
気持ちが走り出しちゃったから……
待ってるだけじゃ……嫌なの……
「実希ちゃん!実希ちゃんっ!!」
携帯に必死に呼びかけてる本ちゃんの姿を見つけて、後ろから抱きつく。
「おわっ!実希ちゃん?」
本ちゃんの声……。
機械を通してない本当の声…。
嬉しくて抱きつく腕に力を込める。
「実希ちゃん。ホンマに心配したんやで?」
「………。」
抱きついたまま、大きく頷く。
「はぁ…、やっぱり俺……あかんなぁ。
今日くらいはカッコええとこみせたろ思たのに…。」
ガックリ肩を落として言うから…
「十分カッコ良かったよ。
それに…私だって…ただ待ってるだけじゃ嫌…。
私だって……本ちゃんに会いたかったんだから。」
「ありがとぅ…。」
小さく呟いて抱き締め返してくれる。
「本ちゃん、行こう。」
手をつないで、家まで帰る。
「西条さんが言ってたのはこの事だったんだね。」
部屋に入って、コーヒーを淹れる。
「西条が何か言ぅたん?」
「『心配せんと待っとき』って。」
「……ごめんなぁ。あんまり連絡出来んくて…。」
申し訳なさそうに俯く。
「うぅん。今日ので全〜部飛んでった。不安も。」
「実希ちゃん……。」
本ちゃんは未だに不安そう。
「う〜ん。じゃぁね……。」
少しためらって……
「実希ちゃん?」
不思議そうな顔で覗き込まれる。
「実希……って……呼んで/////」
言ってる傍から、顔が赤くなる。
「えっ/////」
言われた本ちゃんも真っ赤(笑)
「だって……いつまでも『実希ちゃん』じゃぁ…
恋人なのに……。」
「えっと…………/////……じゃぁ……実希?/////」
「ふふっ/////」
小さく笑うと「あかんかった?」って…
「何かくすぐったい感じ……でも…嬉しい/////」
それからいっぱい名前を呼んでもらって…
一緒の布団に入る。
「本ちゃん……。」
「ん?」
少しでも本ちゃんの傍に居たくて……
ギュッと抱きつく。
「実希ちゃん!?あかんて/////」
「何で?」
引き離された身体が……本ちゃんを求めてる。
「そんなに抱きつかれたら………我慢出来ひんわ/////」
「………。」
制止する本ちゃんの手をすり抜けて、もう一度抱きつく。
「実希ちゃん!!」
焦った本ちゃんの声。
「………我慢なんて……しないで……。」
言った後に顔が熱くなる。
「実希ちゃん?」
「『実希』だってば。」
照れ隠しに強めの口調で言って、そっとキスをした。
「ホンマに……?えぇん?」
『いいよ』なんて恥ずかしくて言えないから……
精一杯で伝えた言葉。
「……本ちゃん……大好き。」
朝の光に起こされて、目を開ける…
あなたの腕枕が…気持ちよくて……
隣にいるあなたが…愛しくて……
このまま時間が止まってしまえばいいのに……
そう思った……
続く→
作品名:壇上のNovelist 2ndシーズン 作家名:雄麒