壇上のNovelist 2ndシーズン
第35話 再出発(遥)
どうやらあの日から、瀬崎は劇団に来ていないらしい(本山情報)
まぁ俺としては、そっちの方が安心やけど……
それでも何だか腑に落ちなくて……
やっぱり俺はあいつを許せない……
こないな俺は、大人気ないんやろか?
PiPiPiPi〜♪
携帯が鳴って、ディスプレイを覗き込む。
(誰や?)
知らない番号からの電話。
不審に思いつつも、通話ボタンを押した。
「もしもし?」
『もしもし。……いきなりすみません。俺……瀬崎ですけど…。』
居間でテレビを見ていた雫を確認して、ベランダに出る。
「何か用か?」
自分でもわかる位声のトーンが下がる。
『今から少しだけ会えませんか?』
そう言われて、眉間に皺が寄る。
「俺にか?」
『はい。』
ホンマは二度と会いたくないけど……
場所を聞いて電話を切る。
「ようちゃん?どっか行くの?」
出かける支度をしている俺に気付いて、雫が近づいてくる。
「あぁ、ちょっとな。お前は待っとれ。
すぐ戻って来るから、家から出んと待っとき。」
「え…?うん。わかった。」
家を出て鍵をかけて、待ち合わせ場所に向かう。
既に先におった瀬崎を見つけて、ゆっくりと近づく。
「今更何の用や?」
「わざわざすみませんでした。」
深くお辞儀をした瀬崎の足元に、大きい手荷物。
「どっか行くんか?」
そう言うと、瀬崎は自分の荷物をちらっと見て、困ったように笑った。
「西条さん……今更ですけど……すみませんでした。」
瀬崎の言葉に呆気に取られて、言葉が出てこない。
「俺……これからもう一度、勉強し直す事にしました。
九州の方に照明」の勉強が出来る所があるんで、そっちへ行こうと思ってます。
本当は戸谷先輩に謝るべきなんですが……それこそ今更な感じなんで……。」
その時初めて瀬崎の泣きそうな顔を見た。
「なので……戸谷先輩には何も言わないで行きます。
弱い俺は逃げるんです。自分の犯した過ちから……。」
今にも泣きそうな顔で、瀬崎が笑う。
もう一度会ぅたら、一発位殴ってやろうと思とったのに…
そないな気も失せた。
「えぇんちゃう?それでも。」
向こうも殴られる覚悟やったみたいで、驚いて顔を上げた。
「お前はまだ若いんやし、これからいくらでもやり直せるやん。」
俺の言葉に、涙を溜めていた。
「ただし、今度また同じ様な事しよったら……
そん時は容赦なく殴るからな。」
瀬崎は必死に涙を堪えながら、大きくお辞儀をして歩いて行った。
俺もやけにスッキリして、家に戻る。
その後―――。
九州に向かった瀬崎が、立派になって
運命の女優にスポットを当てる日は………
近からず……遠くない……少し未来の話………。
続く→
作品名:壇上のNovelist 2ndシーズン 作家名:雄麒