壇上のNovelist 2ndシーズン
第32話 力不足(本)
助手席に座る雫ちゃんの気配が薄れて、眠った事に気付く。
……いや、どちらか言ぅたら…気ぃ失った…言ぅた方がえぇかもしれん。
イヤホンマイクを取り出して、俺は電話をかける。
『もしもし?どないしてん?』
「今……お前ん家向かっとるから……。」
『こんな昼間っからか?』
「とにかく下で待っとってくれ。」
『本山?ちょ……プッ
何かを言いかけた西条の言葉に、気付かないフリで電話を切った。
そのまま急いで車を走らせた。
けど……正直どんな顔で会ぅたらえぇか……わからん……
任せとけ……言ぅたのに………
西条のマンションが見えてきて、ゆっくりスピードを緩める。
入り口で待っとった西条に気づいて、車を止めた。
「何やの?いきなり……雫っっ!?」
助手席を見るなり、目を丸くする。
「気ぃ失ってるだけやから……とりあえずベッドに……。」
俺の言葉が終わる前に、雫ちゃんを抱き上げてた。
初めて入った西条の家……。
いや…どっちか言ぅたら、二人の家…言ぅた方が正しぃ気がする。
俺は居間で立ち尽くして、周りを見渡す。
テーブルの下にある小難しそうな本は、西条のやろな………
んで…ソファーに座っとるペンギンのぬいぐるみは…明らかに雫ちゃんのやろ…
その何の変哲もない……幸せな空間……
思わず拳を握り締めた。
(俺がもっと気ぃつけとれば……)
パタン
寝室らしきドアが開いて、西条が出てくる。
「西条………スマン……。」
「とりあえず、何があったんや?」
「ちょっと目ぇ離した隙に…雫ちゃんと瀬崎の姿が無くなっとって…
慌てて探したんやけど、近くにおらんかってん……。」
西条の顔が見れへんくて…下を向いてしまう。
「散々駆けずり回って見つけた時には、雫ちゃん…押さえ込まれとった……。」
静かな部屋で俺の声だけが響く。
「ホンマに……謝って済む事ちゃうのはわかっとる!
俺が悪いねんっ!!ホンマ……ごめんっ!!」
深々と頭を下げた。
「あほやなぁ……何ちゅー顔しとんねん?」
少し笑いながら言った西条の言葉に、驚いて顔を上げる。
「お前が悪ぃんとちゃうやろ?
お前が一生懸命なん知っとるゎ。雫に気ぃつかれるほどやからな。」
「西条………。」
目の奥が熱くなって、鼻がツンとした。
「お前は……平気なんか?」
「平気な訳ないやろ?ハラワタ煮え繰り返りそうや。」
西条の手を見ると、握り締めた拳から少し血が滲んどった。
俺は何も言えなくなって黙り込む。
「本山。」
名前を呼ばれて、西条を見る。
「お前車やろ?今から劇場連れてってくれんか?」
西条の目の奥に怒りの色を見つけて、背筋がゾクッとした。
「どぅする気や?」
恐る恐る聞いた。
「どぅもこぅもあらへんやん。」
ガタン
寝室から物音が聞こえて、二人で振り返る。
「雫っ!!」
慌てて寝室に駆け込んだ。
「………よぅ…ちゃん…。…ふぇっ……よぅ……ちゃ……」
西条に気付いた雫ちゃんが、西条に飛びついて
今まで張り詰めていた糸が切れた様に、わぁわぁ泣き出す。
こんな雫ちゃん……初めて見るゎ……
抱きしめようとした西条の腕がピタッと止まって、成すがままの状態。
何で抱きしめてやらんのやろ?
何て思いながらも…見ている事しか出来ない。
徐々に雫ちゃんの声が小さくなって…
また眠りに入ったのを確認する。
それまで動かなかった西条が、そっと抱き上げてベッドに寝かせた。
「……………っ。」
雫ちゃんの腕に残る痣にそっと触れて、西条は声を殺して泣いとった。
「やっぱりお前はここにおった方がえぇ。」
そんな二人を見て、そう告げた。
「いやっ、俺が行く。」
スッと立ち上がって、上着を掴む。
「西条っ!」
声が大きくなったんに気づいて、慌てて口を押さえる。
「お前はここで待っとってくれ。」
何とか宥める様に言い聞かす。
「けどっ!!」
「雫ちゃんの傍にいたってや?」
「…………………。」
黙って上着を握り締めた。
「せやから…お前の変わりに…俺がいってくる。」
「これ以上…関係ないお前に迷惑かけられへんゎ。」
「関係ない訳ないやろっ!?俺の責任やっ!!
俺にもう一度チャンスくれっ!!落とし前は自分で付けるっ!!」
投げつける様に言って、寝室を出ようと背を向けた。
「本山……。」
小さく声がして、振り返る。
西条は俺に背を向けて、ベッドに座っていた。
「どんな形であれ……お前を巻き込んでしまって………ホンマ……ごめん…。」
それを聞いて、何も言わずに部屋を出た。
続く→
作品名:壇上のNovelist 2ndシーズン 作家名:雄麒