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壇上のNovelist 2ndシーズン

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第31話 根比べ(雫)
「先輩っ!こっちっ!!」

細い廊下を瀬崎君の後ろを追って走る。

  本ちゃんが怪我したって……!?

不安がどんどん大きくなって……
嫌な記憶が甦ってくる。



「わっ!!」
目の前で急に立ち止まった瀬崎君に、勢い余って激突してしまう。

「ごめんっ。」
慌てて体を離した。

「本ちゃんはっ!?」

ゆっくり振り向いた瀬崎君を問い詰める。

「さぁ?今頃大道具運んでるんじゃないんですか?」
そう言って、にやっと笑った。

「騙したの?」
眉を寄せて睨んでも、何も言わずに笑い続けている。

「最低っ!」
背中を向けて、来た道を戻る。


「こうでもしなきゃ、話も出来ないじゃないですか?」
腕を掴まれて、引き止められる。

「離してっ!!」
暴れる腕をさっきよりも強い力で掴まれて
近くの空き部屋に、引っ張り込まれる。

「……っ。わかったから……話聞くから離して。」
そう言うと、腕を開放してくれた。


「それで?」
瀬崎君との距離を保って口を開く。

「俺、本気ですから。戸谷先輩の事……。」
そう言った瀬崎君の目は、真剣だった。

  それでも……言っていい事と悪い事ってある……

「あたし、彼氏いるからっ。」

「知ってます。」
さらっと答えたのに驚いたけど……

  じゃぁ何で?どうしろって言うの?

「でも西条さんより、俺の方があってると思いませんか?」
その答えに更に驚いた。

  だって……ようちゃんの事……言ってないはず……

でも知られているなら、そっちの方が話が早い。

「あたしはようちゃんが一番好き。ようちゃんじゃなきゃヤダっ!」
  キツめに言うのも仕方ない。

  いつまでもこのままじゃいられない……

  いくら鈍いあたしでも気付く………

  さりげなく本ちゃんが傍にいてくれている事……

  これ以上迷惑はかけられない……

  ハッキリさせなくちゃっ!

「それでも……俺は諦められません。」
平然と言う態度に、イラッとする。

「それに、あんな人より俺の方が幸せに……パシッ
思わず手が出た。

「ようちゃんの事…あんな人なんて言わないでっ!!」

左頬を押さえて、呆然としている瀬崎君の横を通り過ぎる。

「とにかくもういいでしょっ!?」
ドアに向かった腕を掴まれて、力任せに引っ張られた。

「いった〜。」
あまりの力にそのまま倒れこんでしまう。


「……………っ!?」
視界が一瞬暗くなって、私の上に覆いかぶさる様な体制で
瀬崎君が見下ろしているのに気付く。

「ちょ……!?どいてっ!!」
暴れ出した腕が、瀬崎君の手によって簡単に縫いとめられる。

「先輩…。知ってます?どんな事をしても手に入れたい相手っているもんですよ。」
そう言った瀬崎君の声がいつもの声じゃなくて………

「し……知らないっ!そんな事……っ!」

  ギリッ
「痛っ!!」
縫いとめられた腕が、より強い力で掴まれる。

「くすくす…ほら…どんなに頑張っても……力じゃ勝てないでしょう?」
私の上で笑っている瀬崎君の顔が、逆光でよく見えない……

ものすごく怖くて……体が震え出す。

だけど……泣いたら負けの様な気がして……
溢れ出そうになる涙を、必死に堪える。


「あぁ……そんな顔して……誘ってるんですか?」
ふふっと笑って、近づいてくる顔に気付いて顔を背ける。

目を閉じたままの視界が不意に明るくなって、
恐る恐る目を開けると同時に、首筋に生暖かいぬるっとした感覚。

「っっ!?」
その直後に少しの痛みと、吸い付かれる感覚。

「くすくす。これ見たら、愛しのようちゃんは…どう思いますかね?」

「……っ。お願い…もう……やめてっ……」
それでも腕の力が緩む事なく…

「あぁ……ホント……もう、ゾクゾクしますよ。」
再び目の前が真っ暗になって、瀬崎君の顔が近づいてくる。


「……っ  バタンッ
唇に触れるか触れないかの瞬間に、勢いよく扉が開いたドア。
その音の数秒後に、殴られる音と手が自由に動く感覚。

「………本………ちゃ……ん?」

息を切らしながら、本ちゃんは拳を握り締めている。

本ちゃんの向こう側に、右の口元から血を流した瀬崎君が見えて、また体が震え出す。



やっとの思いで立ち上がって、本ちゃんに連れられて部屋を出た。

その間中…一歩も動かなかった瀬崎君……

そのまま本ちゃんの車で、家まで送ってもらう事になった。



助手席から本ちゃんの運転している姿を見て
自分の腕に残る大きな手の痕を見る。

カタカタと震え出す体をぎゅっとつねる。

今まで張り詰めていた体から、ふっと力が抜けて目を閉じた。


続く→
作品名:壇上のNovelist 2ndシーズン 作家名:雄麒