壇上のNovelist
第6話 初舞台(雫)
あの日…西条さんの前で号泣してから、西条さんの姿を見ていない…。
台本が出来上がる前は、劇場のどこかしらで見ていたのに…
本当に役者全員を見ていたらしいことに、今更気づく。
そんな西条さんに負けないくらい練習をした。
自信を持ってこの役をやり切る!
そう決めたのに…
今日は初舞台。
出番が近づいてくる度に、心臓が飛び跳ねる。
「大丈夫。落ち着いて行こう。」
隣で出番を待っていた団長に声をかけられる。
「は…はいっ!」
それでも鼓動は早くなるばかり…
(どうしよう…西条さん…。)
あの日…勇気付けられた言葉を何度も心の中で繰り返す。
ぎゅっと瞳を閉じる。
「楽しめばいい。役者が楽しくなきゃ、客にも伝わらない。」
団長が歯を見せて笑う。
ふっと体の力が抜けて、少しだけ楽になる。
(楽しく…楽しく…)
「さぁ出番だ。」
その一言で舞台に上がった。
「雫っ!かっこよかったよ!!」
出番を終えて、舞台から掃けた雫に実希が一番に声をかける。
本当に良かったのだろうか?
楽しませる事が…出来た…?
それは分からないけど… 今は満足感でいっぱいだった…
ココロから楽しかった…今ならそう言える。
初日の公園を無事に済ませ、帰途に着く。
明日からも…まだまだ続く。
だけど…今日のこの日だけは、絶対に忘れない…
沢山の人に支えられて… そして…自分の足で舞台に立った…。
やっと役者への第一歩を踏み出したんだ… …
月日は流れ…。
千秋楽…
(今日で… 最後…)
ほっとした様な… 物足りないような…
不思議な気持ちで、劇場のドアを開ける。
「…!?」
開いたドアの向こうを見て、驚いた。
「西条さん?」
「よぉ。」
あの日以来だったので、何となく気まずい…。
「おっ。おはよう。」
西条さんの奥にいた団長が、私に気づいて挨拶をする。
「お…おはようございますっ!」
慌てて挨拶を返した。
「せっかくだから、今日は西条君にも来てもらったんだ。
台本が出来てから、顔を出さなくなって、出来栄えを見てもらってなかったからな。」
「そうなんですか…。」
やっぱり少し気まずくて…目を合わせることが出来なかった。
「今日はついに千秋楽だな。最初はどうなるか不安だったけど
みんなよくやってくれたよ。戸谷…。お前も頑張ったな。」
そう言ってくれた団長に、涙が出そうになったけど堪える。
「ありがとうございますっ!」
大きくお辞儀した。
「西条君も今日は楽しんでって下さい。僕らも精一杯やらせて頂きますから。」
「えぇ。頑張ってください。僕も楽しみです。」
団長は西条さんに会釈をして、受付の方へ向かって行った。
目の前に…西条さん…
何かを言わなければいけないのに…
体が言うことを聞いてくれない…
「…っ。」
「頑張れや。」
それだけ言って、部屋から出て行ってしまう。
「…はぁっ。」
結局何も言えなかった…
だけど…
今日は西条さんが見てる…
今までの成果を見てもらえる。
一段と気合を入れて舞台に上がった。
最後の幕が下りて、団員からもやっとピリピリした空気が薄れる。
「お疲れ様でした。」
「お疲れ〜。」
各々が感想を言い合ったり、次の舞台への意気込みを語っていた。
バタバタ
私は舞台メイクも落さずに、客席の方へ走る。
「はぁっ。 はぁっ!」
きょろきょろと人の少なくなったロビーを見回す。
「っ!!」
西条さんの後姿を見つけて、慌てて引き止める。
「くすくす(笑)お前そこ掴むん好きやなぁ。」
そう言われて、また洋服の裾を掴んでいるのに気づく。
「ご…ごめんなさい。」
慌てて離して、息を整える。
「お疲れさん。」
「はいっ!あの… いろいろ…ありがとうございました!!」
「ん…。よぉやったな。これからも頑張りや?」
そう言って、ふわっと笑った。
初めて西条さんの笑顔を見た気がする。
別れ際に、頭をくしゃってされて…
いつもなら子ども扱いされてるみたいで、嫌だったその仕草が…妙に嬉しくて…
自然と笑み浮かぶ。
次に会えるのは… いつか分からないけど…
本当にありがとうございました!!
私に自信と… 勇気と… 希望を教えてくれた人…
次に会った時には…
もっと大きな自分になってますように…
続く→
作品名:壇上のNovelist 作家名:雄麒