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壇上のNovelist

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第19話 夢ならいいのに…(雫)

ピッピッピッ
無機質な機械音が、やけに耳に残る。

ガラス越しに横たわるようちゃんから、いっぱい線が出てる…
涙も涸れ果てて、虚ろな目で見続ける。

こつん
ガラスに額をもたげて、小さく名前を呼び続ける…

「ようちゃん…ようちゃん…。」
吐き出す息が冷たいガラスに当たって、視界が曇る。

涸れ果てたはずの涙が、また溢れ出して…
ようちゃんが歪んで見えた…


病室に移された時も眠り続けたままで…
見るに見かねた看護婦さんが『泊まって行きなさい』と簡易ベッドを用意してくれた。


消灯時間が来て、自然に電気が消える。
急に真っ暗になって、一瞬ようちゃんの顔が見えなくなって、不安になる。

だんだん暗闇に目が慣れてきて、ようちゃんの顔を確認出来て、胸を撫で下ろした。

瞳が乾いて、目蓋がものすごく重く感じる。

ようちゃんの顔が見える位置に、少しだけ突っ伏した。

「…明日の…朝には…起きるよ…ね…?」


あれから少しだけ意識が無くなって、自分が眠っている事に気づく。
眠っているはずなのに、やけに意識がハッキリしていて…あたりを見渡す。

見覚えのある景色…
(あぁ…お家だ…)

  何だ…夢だったんだ…
ほっとして階段を駆け上がる。

  この階段を上りきれば、いつものようちゃんの笑顔…。
  ドアを開ければ『おかえり』って…

だけど…昇っても…昇っても…先は見えなくて…それでも必死に昇り続ける。

「はぁっ…はぁ…何でっ!?」
うまく呼吸が出来なくて…
それでも立ち止まっちゃいけない気がして…
涙が溢れて、前が見えない…


「…っ!」
不意に視界が真っ暗になって、目が覚めた事に気づく。

 涙に濡れた頬…

 やっぱり、こっちが現実で…
 目の前には…未だに目覚めぬようちゃん…

また涙がこみ上げて来る。


結局、一睡も出来ないまま、窓の外が明るくなっていった。
朝の見回りで、看護婦さんが回って来て、ようちゃんの点滴を取り替えている。
その一部始終を黙って見ている事しか出来なくて…
自分がようちゃんの為にしてあげれる事が、全く無いんだ…と思い知らされた。

昨日の簡易ベッドを用意してくれた看護婦さんが
『少しでもいいから、食べなさい』とサンドイッチを持ってきてくれた。
すごく嬉しかったけど、食べられる気配が無かったので、手を付けずに謝った。


昼を過ぎて、音もなく静かだった病室のドアが勢いよく開いた。
「雫ちゃんっ!!」
ゆっくり振り向くと、血相を抱えた本ちゃんの顔…

「本…ちゃ…。よう…ちゃん…が…。」

「今はえぇから…。それより、看護婦さんに聞ぃたで?
ほとんど寝てないみたいやんか?飯もろくに食ゎんと…。」

「あたしのせいなのっ!!あたしが温泉に行きたいって言わなければ…
あの宿を選ばなければ…あそこで迷わなければっっ!!
こんな事にならなかったっっ!!あのままあたしが引かれてれば…

バンッ
壁を叩く音がして、本ちゃんが怖い顔で見てくる。

「アホな事言ぅな。西条に今の雫ちゃんと、同じ苦しみを味あわせたいんか?」
そう言われて涙が溢れた。


その後本ちゃんに連れられて、外に出た。
手渡されたスポーツドリンク…。
少しずつ喉に通す。

「西条には言ぅな、言われてんけど…。」

「あいつから、よぉ雫ちゃんの事聞かされとんねん。」
「あたしの…?」

本ちゃんがちらっとこちらを見て、プッと吹き出す。
「…?」

「くだらん事なんやけど…寝つくのめっちゃ早いとか…
今日も晩飯は黒こげやったとか(笑)
そんなんでも、大切なんやなぁ…って伝わって来て…
ほら…あいつ天邪鬼やから、重要な事言われへんねん。」
そう言って笑ってくれた。

その笑顔に久しぶりに暖かい気持ちになれた気がした。

「だから…今は…待っててやって…?あいつはちゃんと戻ってくる…
雫ちゃんとこに帰ってくるから…。」

涙に負けて声が出ない。
その代わりに大きくうなづいた。

何度も…何度も…


本ちゃんと別れて、一人病室に戻る。
相変わらず、眠ったままのようちゃんの顔…。

  さっき…待ってる…いつまでも待ってる…
  そう決めたのに…その決心が揺らぐ…

椅子に座って、昨日と同じ位置でようちゃんを見つめた。

「…っ。…っく。」

  泣いちゃダメだって…思うのに…
  止まらない…

「…ようちゃん…。早く帰って…来て?…あたしは…ここよ…?
『ギュッ』ってして…?『鈍やなぁ…』って笑って…?ねぇ…ようちゃん…?」

続く→
作品名:壇上のNovelist 作家名:雄麒