壇上のNovelist
第14話 他人行儀(遥)
「西条さ〜ん。」
リビングから声がして、仕事をしていた手を止めて足を運ぶ。
「何や?」
風呂上りらしく、タオルで髪を拭きながらペタペタと近づいてくる。
「何つー格好してんねん。」
目のやり場に困る。
「やっと暖かくなってきたから〜。」
それにしても…ランニング一枚て…
無言で部屋に戻って、小さめのTシャツを選んで渡した。
「せめてそれでも着とけ。」
ぶぅーぶぅー言いながらも、腕に手を通す。
「これでいいですか?」
着たのはいいが…
(これはこれで……痛ぃ…)
小さめを選んだはずやのに、だぼっとしてて…
半そでが七分丈になってるやん…。
「もぅ、何でもえぇゎ。」
ため息をつく俺に首をかしげながら、また頭を拭きだした。
「あっ。西条さん、次お風呂いいですよ。」
そう言われて、そのまま風呂場に向かう。
今まで一人暮らしやったせいもあって、あんまし風呂に入る事は無く…
シャワーだけで済ませることが多かった…
しかし、あいつが極度の冷え性らしく
布団に入っても暫くは足が冷たいと言うので、風呂に入るのが習慣になっていた。
まぁ入ってみれば、やっぱりえぇもんで、疲れが取れる気がする。
(でも…あいつのせいで昔の二倍は疲れるから、プラマイゼロやな。)
風呂から上がって、ペットボトルを取りに冷蔵庫に向かう。
「ん?」
居間の方にちまっと座りこんどる雫の姿が目に入って、
飲んでいた水を噴出しそうになる。
「お…お前、何してん?!」
慌てて持っていたものを奪う。
風呂に入る前に読んでいた本をそのままにしてきたのを、すっかり忘れていた。
「新刊でたんですか?」
こないだまで書いていた小説がやっと終わって
製本する前に最終チェックをしていた、発売前の新刊。
「…。どぅでもえぇやろ。」
他の人に見られんのは、構わんのに…
こんだけ近くにおる奴に見られたないやんか…!?
自分の中で言い聞かす。
「でもあたし、西条さんの本全部持ってますし。」
ニコニコ笑って出してくる。
「え…えぇから、しまえっ!俺の前では絶対読むなや?」
何とか一息ついて、煙草に火をつける。
「西条さんって、本名ですか?」
「は?」
いきなり振られた質問の意味がわからんくて、変な声が出る。
「小説…西条ヨウって書いてあるから。」
やっと意味がわかって、思わず笑う。
「あぁ。西条はまんまやで。下は漢字で『揺らす』って書く。」
「それで『遥(よう)』ですか?」
聞かれると思た…
あんま言いた無いけど…
「読みがちゃうねん。『遥(はるか)』って読むんや。」
改めて声に出すと、やっぱ恥ずいゎ…。
恨むで…おかん…。
「何か、幻想的ですね〜☆」
ほわっとしてそう言うた。
「幻想的?」
「はい。遥か彼方〜とか、遥かなる〜とか…先の先までありそうじゃないですか?」
ニコニコ笑って言う姿に、嘘・お世辞じゃない事がわかる。
今までこの名前教えたやつは、みんな『女みたいや〜』と笑った。
本山なんか二ヶ月くらい『はるかちゃん』言うて来たな#
いまだかつて無い反応に、嬉しくなった。
「ほんなら、名前で呼んでもえぇで?」
「え?」
「いつまでも『西条さん』やと堅っ苦しいやろ?」
今まで名前で呼ばれる事なんて無かった…
(つか呼ばせんかっただけやけど…)
でも…こいつならえぇゎ。と思た。
「え〜、じゃぁ…はるかさん?」
「…。」
何となく腑に落ちなくて、無言になる。
「何か嫌やなぁ。」
「う〜んと、じゃぁ…ようさん?」
さっきよりはえぇけど…ペンネームやし。
見た事も無いファンから、手紙とかでそう呼ばれとるから…
「それもなぁ〜。」
「う〜ん。じゃぁね〜。じゃぁね〜…。」
悩んでパッと顔を上げる。
「ようちゃん!!」
ニパッと笑って、そう言った。
気に入ったんか知らんが、ずっと連呼しとる。
「ダメですか?」
不安そうにちらっと見てくる。
「気に入ったんなら、それでえぇゎ。」
「ホントに?じゃぁようちゃんで!!」
「えへへvようちゃん。」
「何や?」
「呼んでみただけ〜v」
そう言ったこいつに胸が鳴る。
「はぁ〜。俺…もぅお前んとこのシナリオ書けへんゎ。」
「何でですか?」
あぁ〜。もう結局は『鈍』か…
「今度は私情が入ってしまいそうや。」
ため息混じりにそう言うと、少し顔を赤くした…?
様な気がした…。
続く→
作品名:壇上のNovelist 作家名:雄麒