壇上のNovelist
第11話 今日は何の日…?(遥)
あいつの舞台も始まって…俺も仕事に追われる毎日が続く。
それでも一緒に住んでるだけあって、夜は合わせて飯を食う。
今日あった事や…失敗したこと…
話は尽きる事無く出てくる。
(よぉしゃべるなぁ…)
と思いながらも、結構楽しんでいる自分がいる。
そんなある日…。
俺はいつもの様に、食後にコーヒーを飲んでいた。
「西条さん…。」
食器を洗い終えたらしく、俺の向かいに座った。
「何や?どないしてん?」
いつに無く真剣な顔しよるから…
俺も緊張して尋ねる。
「これ…。」
遠慮がちに一枚のチケットを差し出してくる。
「それ…明日の公演のチケットなんですけど…。」
まじまじとそれを見ていた俺に、そう言ってきた。
「時間あったらでいいんで…見に来てくれませんか?」
見てみると明日の夜の公演分のチケットだった。
(千秋楽でもないのに…?)
不思議に思ったが、今までこいつがこぅやって誘ってくる事無かったから…。
「ん…。まぁ気が向いたらな…。」
「…明日じゃなきゃ…」
不満そうな顔して呟く。
「ん?何や?」
よく聞き取れなくて、聞き返す。
「いえっ。何でも無いです。」
焦って再びリビングへ向かって行った。
「…。」
その後姿を見送る。
「四時ごろ行けば、えぇんか?」
「えっ?」
驚いてこっちを見ている。
「五時からなんやから、四時ごろでえぇんやろ?」
「はいっv」
満面の笑顔を見て、何故か照れる。
翌日――――。
時間通りに会場に着いて、ロビーをフラフラしとった。
「おぉっ?!西条…?」
煙草を吸おうと喫煙所を探している時に、
舞台メイクを済ませた本山とはち会う。
周りの客に見つからないように、関係者の控え室に通された。
「どないしたん?お前が俺の舞台見に来るなんて珍しいやん?」
灰皿を進められて、煙草に火を点ける。
「ん〜。そやったか?」
少し苦笑い…。
(言えへんよなぁ…。)
本山の顔を見て、ため息をつく。
「何やねん?人の顔見てため息つくなや。」
冗談交じりに笑ってくれる。
がちゃっ
控え室の扉が開いて、二人で振り返る。
(げっ!?)
よぉ考えたら、控え室なんやから会ぅてしまうに決まっとるやん?
そう思ったのも後の祭り。
「西条さんv」
ぱぁぁぁっと笑顔になって、駆け寄ってくる。
「本当に来てくれたんですねv」
話し続けているこいつと、俺とを見比べてる本山の視線が気になって…
笑顔を向けてくる相手に、目で合図を送る。
「…?」
よく分ってない様な顔をして、首をかしげたんを見て…
筋金入りの『鈍』である事を思い出した。
「何?何?雫ちゃんが呼んだん?」
俺の態度に気づいたんか、質問の矛先を変える。
ギロッと睨んでも、面白おかしそうに聞き続けている。
「あれから会ぅてるん?」
「毎日会ってますよ。ねっ?」
ねっ。…って。俺に振んなや…。
「毎日?」
「はいっ。今西条さんのお家に居候してるんです。」
(もう…どぅにでもしてくれ…)凹)
聞いていられなくて、机に突っ伏した。
「えぇぇぇぇぇぇぇっ!?」
大声を上げた本山の口を押さえる。
「あほっ!声大きぃゎ!!」
「す…すまん。ってお前それって同棲ちゃうん?」
「そんなんやないって…。」
小声で討論。
「どうしたんですか?」
二人の間に割って入ってくる。
「い…いやっ。何でもないで?」
「あっ。そろそろ時間やで?雫ちゃんメイクまだやなかった?」
「そうだったぁ。」
本山の台詞に慌てて部屋を出て行った。
「で…?どぅゆぅ事やねん?」
扉が閉まるのを確認して、再び話し始める。
「もう…。今はあんま深く聞かんといてくれ…。また落ち着いたら話すから…。」
「お前も大変やな…。」
全てを悟ってくれるこいつを、ホンマにありがたいと思った。
その後、舞台を見て…
会場の外で待つ。
本山に『久しぶりなんやし、後でまた顔出せや?』と言われていたが、行ける訳が無かった。
(また、ややこしぃ事になりそうやんか…)
今日はどっと疲れたゎ…(凹)
「西条さんv」
ぴょこんと顔を出して覗き込んでくる。
「…ふぅ〜。」
少し屈んで、今まで吸っていた煙草の煙を顔面に吹きかける。
「ごほっ。な…何するんですか?」
涙目になって煙を払う。
何も言わずに先を歩き出した俺に、慌てて追いかけてくる。
「何か…怒ってますか?」
しばらく黙って歩いていたが、恐る恐る聞いてきた。
俺は足を止めて、向き合う。
「???」
きょとんと見上げてくる。
「怒ってへんけど…」
「あんまし他の人に一緒に住んでるの言わん方がえぇで?」
「俺はえぇけど、仮にもお前は女なんやから、誤解されたら困るやろ?」
「困る?」
あぁーーーもうっ!!!
「あー。そうやなぁ?何て言えばえぇねやろ…。」
悩みながら分りやすい言葉を探す。
「よく分んないけど…西条さんがそう言うなら、もう言いません。」
にぱっと笑って、Vサインを出した。
どんだけ…俺…信用されてんねや?
まぁ…
言わないに越した事ないやろ…?
続く→
作品名:壇上のNovelist 作家名:雄麒