壇上のNovelist
第9話 二人の関係って…?(遥)
少し変わった同棲生活が始まって一週間。
特に問題もなく、時が過ぎていく。
「あっ。おはようございます。」
ベッドから起き上がった俺に声をかけてくる。
「ん…。」
寝ぼけた頭で曖昧な返事を返す。
「ご飯出来てますよ?」
ただ置いてもらうのは悪いから、と言って飯を作ってくれる。
これがまた普通に上手い。
…んやけど、たまに突拍子もないもんが出て来よるから…
味噌汁に梅干入ってたり…あん時は衝撃やったな…
でもまぁ…あんまし自分で作ったりせぇへんから、助かるんやけど…。
「今日、俺…外で仕事やから、帰り遅なんで。」
朝飯を食いながら告げた。
「あたしも今日バイトなんで、大丈夫です。」
「…そぅか。」
何が大丈夫なのかと言うと…鍵の事。
何となく合鍵を作るんも、照れくさくて…
まぁ、俺が仕事上、大抵家におるから、別に問題は無いんやけど…
たまにこうやって外に行かなあかん時は、ホンマに迷う。
「行ってくる。」
身支度を整えて、そう言うと食器を洗っていた手を止めて、パタパタと駆け寄ってくる。
「はぁい。行ってらっしゃぁい。お気をつけてv」
この一連の動作が、最初は戸惑ったけれど…
出る時の『行ってらっしゃい』と…
帰って来た時の『おかえりなさい』が…
何故か嬉しくて…
今まで一人やった時の事を、よぉ思い出せん。
案の定仕事が終わったのが、夜の八時を回った頃。
(まだ店やろな…。)
確か十時までのはず…そう思って店に足を運ぶ。
「いらっしゃいませぇ〜。」
今日は週末のせいもあって、繁盛しとった。
パタパタと慌ただしく走り回ってる姿を見つけた。
どうやら俺には気ぃ付いてへんみたいやな…。
まだ少し時間があるので、とりあえずビールを頼む。
「雫ちゃ〜ん。こっち注〜文〜☆」
そんな声が隣の座敷から聞こえて…
「はぁい。今行きまぁす。」
伝票を持って駆け寄った。
ちらりと横目に覗いてみる。
(おい##おっさん、近いゎ###)
酔った勢いに任せて、セクハラ紛いな事しよる。
「雫ちゃ〜ん。一緒に飲もうよぉ〜。奢るからさぁ〜。」
「もうっ。ダメですよっ。あたしまだ仕事中です。」
するりとかわしながら、席を離れようとしていた… …瞬間に目が合った。
(やばっ…!)
慌てて目を逸らす。
「西条さんv」
満面の笑顔で笑いかけてくる。
「お…おぅ。」
「どうしたんですか?」
「め…飯食いに来たに決まっとるやろ?」
少しおどおどしながら、答えた。
「西条さん!いっつも外食で済ませようとするとこ、悪い癖ですよっ。」
「しゃぁないやんけ。帰ってからじゃ何も作る気せぇへんゎ。」
『もぉ〜』頬を膨らましながら、ちらりと時計を見た。
「もうじき終わるんで、一緒に帰りませんか?」
そのつもりやったし…何て言える訳も無く。
「別にえぇよ。」
ぶっきらぼうに答えた。
「じゃぁ待ってて下さいねv」
また笑顔で厨房に戻って行った。
その後もいろんな所で、声をかけられてるのを見かける。
確かに顔は可愛いと思う…!って俺何言ってん?!
それにあいつ、ちまっとしよるから、時には容赦ない輩も##
見るに見かねて、店を出た。
「西条さんv」
店の外で煙草を吸っていた俺に駆け寄って来る。
何となくイライラした気持ちを持て余して、一歩先を歩く。
黙ったまま歩き出した俺の後を追う様に、慌てて歩き始めた。
「なぁ…。」
俺は歩いていた足を止めて、振り返る。
「何ですか?」
「お前、あのバイト…辞めた方がえぇんちゃう?」
「何でですか?」
決死の想いで言った言葉を、さらっと流される。
「見てて…危なっかしいゎ。」
俺の言葉に、少し考えて…
「大丈夫ですよ。いざとなったら本気で逃げます。」
と手でVサインを作った。
ガシッ
何も言わずに、腕を掴んだ。
「きゃっ。」
掴んだ腕に、少し力を込める。
細っこい腕…このまま折れてしまいそうやんか…。
「西条さん?」
掴まれたまま見上げてくる。
「あぁっ!もうっ!!今はいざという時ちゃうんか?」
俺の言うてる意味が分かってないらしく、首をかしげている。
「はぁ…。もぅえぇゎ。」
大きくため息をついて腕を離す。
俺が歩き始めて、また後ろを歩く。
「大丈夫ですよ。」
歩きながらそう言うから…。
「西条さんだから…大丈夫なんです。」
え…?
もう一度聞き直そうと振り返った。
「さっきのが西条さんじゃ無かったら、ちゃんと逃げてますから。」
にこっと笑って歩き出しよった。
「ちょっ…おい…。」
その背中を追うように、今度は俺が後ろを歩く。
鼻歌まじりに歩く後姿に、黙って付いていく。
何や?分かってんのかいな?
それなら…えぇけど…
とりあえずは、当分外食は止めよう…とココロに決めた。
続く→
作品名:壇上のNovelist 作家名:雄麒