Happy Suggestion
第11話 桜花の決断
その夜……初めて二人で朝を迎えた。
隣で眠る桜花の目は……真っ赤に腫れ上がっていた。
「バッカじゃねーの………。」
小声で囁いたその言葉は、桜花に向けたものなのか………
自分自身に向けたものなのか…………
眠り続ける桜花を置いて、俺はGoddess Fountainに向かう。
もちろん仕事だ。
「よぅ。」
話し掛けた相手は、想像通り疲れきっていた。
「ヒロキさん………。」
裕人は肩を落としてうなだれる。
カウンターの中には入らず、酒を注文するフリをしながら近づく。
「話………したのか?」
ヒロキの問いに少しだけ間を置いて、裕人がゆっくり口を開く。
「あいつ………少し………考えさせて………って……
それに……今……思い出してみると………
最近………会ってくれなくなってて……何ていうか…
元々………もう……駄目だった………っぽい……ス。」
裕人はハハッと笑って、眉をしかめた。
「………お前…「ウォッカくださる?」
ヒロキの言葉を遮って、後ろから声がする。
「……っ…お……桜花…?」
裕人が目を丸くして発した名前に、慌てて振り返る。
そこにはスレンダーな真紅のドレスを着て立っていた桜花。
髪をアップにして……
いつもの何倍も濃い化粧をして………
何て言うか………Goddess Fountainにピッタリな風貌……
女は怖い……ここまで変われるのか……?
「こんな……所に……一人で?」
今にも泣き出しそうな顔で、裕人が問いかける。
「何か問題でも?あなたが知らないだけで、結構来てるのよ?
流石にあなたの店には来れなかったけどね。」
冷たく笑うその表情は、桜花のものじゃない様に感じる。
「今日はあなたに、言いたい事があって来たの。」
桜花の豹変に誰よりも戸惑いを隠せない裕人は
口を開けて見ている事しか出来ない。
「私ね………浮気してるの。」
「えっ?」
裕人の顔が強張る。
「残念だけど…あなたの思ってる様な女じゃないのよ。
あなたと付き合ってる間に、別の人とも付き合ってたの。
最近あなたと会わなかったのは、その人と会ってたからよ。」
桜花は表情を変える事無く言い放つ。
「桜……花……?何……言って………?」
ゆっくりと桜花に近付こうとした裕人を、桜花の言葉が制する。
「あなたに…飽きたのよっ!!海外でも…どこでも…行けば?」
荒げる声と、下を向いて顔を隠した桜花の異変にヒロキが気付く。
「……嘘……だろ?」
桜花の細かい動作に気付かない裕人は、声が震えている。
「嘘…じゃないわ。」
そう言った肩が、小さく揺れているのに気付いて
ヒロキは桜花の肩を掴む。
「……!?」
「ヒロキさん!?」
ヒロキは桜花の肩を抱いたまま、何も言わずに自分の後ろに引く。
「………………っ。こうゆう事よ……。」
ヒロキの後ろに隠れて、そう呟いた桜花の声は既に震え出していた。
呆然とする裕人を残して、そのまま二人で店を出た。
桜花の後ろを歩きながら、ヒロキが呟く。
「馬鹿だな………あんな見え透いた嘘………。」
それでも桜花の足は止まらない。
「私は………裕くんの………重荷……だから………。」
歩くペースが落ちて、ついには立ち止まってしまう。
それに合わせてヒロキも立ち止まる。
~~~♪~~~♪
桜花の携帯から、聴き慣れた音楽が鳴り響く。
たった一人の為だけの……その音は………
鳴るのは………
きっと………今日で………最後…………
ゆっくりと携帯を開く。
新着メッセージ1件の文字にカーソルを合わせてメールを開く。
From 裕くん
題 ごめんな
本文 今までありがとう。
ヒロキさんなら安心だよ。
幸せになって下さい。
携帯の画面に、ポタリと滴が落ちる。
「………っ。……バカ……ね……。
最後の……最後……まで………いい人……なんだから………。」
続く→
作品名:Happy Suggestion 作家名:雄麒