Another Dream Another Story
第九夜 目覚め
いつまでも目を覚まさない彼女。
彼女の目の前に片膝を付いて、顔を覗き込んだ。
何故…彼女は笑わないのだろう?
何故…彼女は動けないのだろう?
何故…彼女はこんなところに閉じ込められているのだろう?
表情の無い彼女に胸が痛む。
俺が殺したはずのお前が……
今………ここにいる………
それが罪であるなら………
罰を受けるのは……俺のはず………
「何故……お前は輪廻の道を……選ばなかったんだ……?」
俯いて床に視線を落とす。
微かに水音が聞こえて、顔を上げる。
「…………!?な……ぜ……?」
椅子に座ったままの彼女の目から、涙が溢れ出ていた。
眉一つ動かさず、表情は何も変わらない。
それなのに、幾筋も幾筋も雫が流れ出る。
その涙にそっと触れ、頭を撫でてやる。
あの時……そうした様に………
二人で見た穏やかな海………
涙を隠すように膝を抱えた彼女………
あの頃の俺は、その涙の訳など全くわからなかったが……
今なら……少しだけわかるような気がする………
あの時……初めて触れた彼女の細く柔らかい髪………
短い事以外は、あの日と何も変わらなかった………
それが無性に切なくて…………
再び視線を落とした。
「……………ィ……」
彼女の唇が、小さく言葉をなぞる。
「え………?」
驚いて顔を上げると、彼女の手が俺に伸びてきて……
ゆっくりと引き寄せられる。
『ライ…………やっと……あなたに……逢えた……………』
続く→
作品名:Another Dream Another Story 作家名:雄麒