Another Dream
第7夜 暗海
ライの腕の中で来た海は、以前よりも遥に短い時間で辿り着いた。
堤防で二人並んで座って、海を眺める。
日中は青く見える海も、今は真っ黒。
青く広がっているはずの空も、今は漆黒の闇。
まるでいつもの夢の中の様な光景。
波穏は目を閉じて、波の音に耳を傾ける。
「静かだね…。」
目を閉じたままつぶやく。
「……………。」
ライは何も言わず、隣に座っていた。
「私ね…小さい頃にお母さんに言われた事があって…。」
独り言の様な音量で、波穏が話し始める。
「生むんじゃなかった…って。
直接言われた訳じゃないんだけど…結構ショックだったんだ。」
膝を抱えて丸くなる。
「やっぱり…私なんか生まれて来なければ良かった…って…
何で生きてるんだろう…って……。」
「それでもお前は生きている。」
終始無言で話を聞いていたライがつぶやいた。
波穏はライを見るが、ライの目線は海へ向けられたままだった。
「ふふっ。後…少しだけどね…。」
冗談っぽく波穏が笑う。
「そんな事言っている暇があるなら、早く誰かに認めてもらえ。」
いつもの淡々とした口調だったが、波穏の心は少し温かくなる。
「そうだね。」
波穏の瞳が微かに濡れて、ライの肩に頭を乗せる。
「………っ……ちょっとだけ……少しで……いいから……肩……貸してね…。」
硬く目を閉じると、頭を優しく撫でられる。
心が高揚して………
涙が頬をつたう………
大きいライの手………
暖かくないその手………
その体温を感じさせない、冷たい手でも……
波穏にとっては十分暖かかった………
続く→
作品名:Another Dream 作家名:雄麒