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Another Dream

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第3夜 案内人


「どうして… …私の名前?」
突然目の前に現れた男は、笑顔で自分の名前を発した。


何度見てみても、どこかで会った記憶など無い…
今までの人生で会話をした人など、数える程度なのだ…


  きっと不審者だ…。
と思いながらも、何故か目を離す事が出来ない…。


目の前で微笑む男は、特別綺麗な顔立ちをしている訳でも無いが…
世間ではこれが『格好良い』と言うのだろうな…?
何て…悠長に考えた。

何度も言うが、今まで生きてきた中で人との接点など皆無に等しかったのだから…
勿論『色恋沙汰』など、波穏にとって到底経験出来るものでは無かった。

それ故に今笑いかけられている男が『いい男』なのかどうかもわからなかった。


「どこかでお会いした事ありましたっけ?」
そんなはずは無いとわかっているはずなのに
何も言わない男に痺れを切らして、そう尋ねた。

「いいや。」
相変わらずの笑顔で即答した。

「じゃぁ…何で?」
怪訝そうな顔をする波穏に、今まで絶やす事の無かった笑顔が無表情に変わった。
その顔を見て、こっちが本当の顔だ。と確信する。
創られた様な先程の笑顔よりも、いくらかしっくりくる。


「篠崎波穏。20歳。8月8日生まれ。
父・母・祖母との四人暮らし。
幼い頃から病と向かい合わせ、今現在も療養しながらの生活。」
一息で吐き出すように言う。

「な…何でっ?」
初めて会ったであろう男に、自分の素性を並べられて頭が混乱する。



「お前の命を頂きに来た。」
整理が追いつかない上に、追い討ちをかけるような言葉。

「え…?」
男の顔を見ても、冗談を言っている様には見えない。

それにしてもあまりに突拍子も無い出来事に
(もしかして、これが夢…?)と頭をよぎる。




「… …っ痛ぅ!!」
風が勢い良く通り過ぎて、首筋に小さく痛みが走る。
リアルな痛みに、これが夢じゃないことを本能的に悟る。


「お前の命は今…俺の手の中にある…。」
淡々と話す男を冷静に見ている波穏。

「じゃぁ…私…死ぬの… …?」
そう言いながら、(それもいいかもしれない…)何て苦笑。

「怖くは無いのか?」
無表情だった男が、一瞬顔を歪めた。


何も言わない波穏に、表情を戻して再び口を開く。

「期限は今日から60日間。契約は既に始まっている。
破棄することも、無効にすることも出来ない。
お前は60日の間に『誰かに生きる価値を認めてもらう事』
それが出来なければ、お前に生き延びる術は無い。」



「今すぐ…じゃないんだ?」
「期限は60日間だ。」

徐々に自分の置かれている状況を理解する。

普通の人ならば、こんな話馬鹿げていると笑うだろう。
虚ろな瞳で男を見つめた。


次の瞬間---。
視界が真っ暗になって、次に目に入ったのは先程の男。

背中に大きな黒い天使の様な羽をまとい…

その風貌は『天使』と言うより『悪魔』に近かった。




「我が名はキール・シュライ。
汝…篠崎波穏の生と死を受け渡すもの…。

今この時から契約を結び、如何なる場合でも汝の道を… …。」

男は目を閉じたまま、先程痛みの走った波穏の首筋に手を伸ばす。
なすがままの波穏は男の手が触れる瞬間に、瞳を閉じた。








ゆっくり目を開けると、立っていたはずのホームで…
男の姿は無くなっていた… …


続く→

作品名:Another Dream 作家名:雄麒